アチラのお医者さんとアカカガチ3
「こごだ」
「えっ、ここって……」
つれてこられたのは、商店街の中にあるさびれたゲーム・センターだった。
あまりお客さんもいない。
若者はとくに少なくて、むしろお年寄りが時間をつぶしているようだ。ぼくはこういうところにはあまり来たことが無いので、どうしていいのかわからない。
「あの、先生は?」
「いねぇ。いるのは、オメエだげ」
そう言って、豚鼻さんはぼくをそのゲーム・センターの奥につれていった。
そこにあるのは、なかなか年季の入った、旧式のクレーン・ゲームだった。操作盤にはホコリがつもってるし、中に入っている景品もガラクタみたいで、まるで物置みたいだ。
そんな古ぼけたゲームの前に立つと、豚鼻さんはいかにも真剣そうに
「あれ、取れ」
ゆびさすのは、ほかのぬいぐるみやガラクタの下にうずもれている、ハトロン紙につつまれて中身の見えない四角い箱だった。
「えっ?取れって、ぼく、お金……」
「カネ、ある」
そう言う豚鼻さんの手には、ゲーム・センター専用コインがにぎられていた。
「そんな。せっかくお金出すんなら、ぶ……おじさんが自分でしたらいいじゃないですか?」
「これ、のどい。オデ、さわでない。オメェ、サカイモノ。さわでる」
よくわからないけど、どうやらこのクレーン・ゲームには呪い(のろい)がかかっていて、アチラモノにはさわることができない。しかしサカイモノなら操作できる。
それでぼくが呼ばれたらしい。
「でも、ぼくクレーン・ゲームってしたことないよ。取れるかどうかわからない」
「取でるまで、やれ」
そう言うと、豚鼻さんはポケットをじゃらじゃらさせた。大量のコインを用意してるみたいだ。
(う~ん、にげられないな)
ぼくは、かくごを決めると、おそるおそるはじめてのクレーン・ゲームに挑戦することにした。
はじめにクレーンのヨコの動き、そのつぎにタテの動きを指定して……あっ、ほらっ、やっぱりつかみそこねた。
「むずかしいです。あの箱、取れにくいところにあるし、上にほかの景品が乗っかってて……」
「取でるまで、やれ」
「――はい」
豚鼻さんは容赦ない目でにらんでくる。ぼくは何回かくりかえして、やっといちばん上にあったシカのぬいぐるみをとった。
「シガ、いらね。箱取で」
「上から少しずつ、くずしていこうと思います」
何回かくりかえしているうちにじょじょにゲームのコツがわかりだしてきた。なにもすべての景品をきれいにつかみあげなくてもいいのだ。クレーンをすこしひっかけてじゃまな景品をのぞけばいい。
お金のことを気にせずゲームをするなんてはじめてで、ぼくもだんだん熱をおびてきた。
そして、何十回目だろう。コインをさんざんつぎこんで余計なガラクタを出した末に、やっとねらいの箱をつかみだすことができた。
「やった!」
つかもうとするぼくを
ドンッ!
と、らんぼうに押しのけたのは豚鼻さんだった。
「えっ?」
とまどうぼくを見もせず
「これでいい。あの医者から、取った」
血走った目でつぶやく豚鼻さんに、ぼくは不安を感じた。
「『取った』って……あなたはのんのん先生に言われて、これを取りに来たんじゃないんですか?」
すると、豚鼻さんは、ニタリと口をいがめると
「ちがう。オデ、これ、ほしかった。だから、オメェ、だました。オメェ、ばが」
わらいながら言った。
――えっ!?まずい!どうやらぼくはだまされたらしい。
「オメェ、ただ帰す、良ぐない。いま、ここで、喰おう」




