アチラのお医者さんと地下決戦8
アリが手間と唾をそそいで削った広大な地盤に、蛍光をおびた苔が一面に生い茂っている。おかげで全然視界にはこまらない。
ところどころ小山のようなものが見える。
「アリが掘り進めたときに残った、硬い地質部分だね。われわれが目指す花は、そういった岩塊に生えています……ああ、あれです」
先生が指さしたのは、ドームの中ごろに高くある岩のかたまりだ。
上の方は特に絶壁で、まるっきり競技クライミング用の壁みたいになっている。
「あのてっぺんに、目指す花……コケシロバナがあります」
たしかに、手足の短いゴブリンがあの壁を登るのはきつそうだ。のんのん先生だって全然運動はダメだから、そりゃむずかしいだろう。
それこそロッククライマーぐらいじゃないと、登るのはむずかしい。
でもまあ、ジェームスは飛べるからね。
「もちろん、わたしたちも途中まで一緒にのぼります。どの花か細かく指示しないといけないからね」
岩塊に近づいていざ登り出すと、傾斜はたいしたことないけど、苔むしてつるつるした岩を登るのがとてもむずかしい。すべり止めで靴に荒縄を巻きつけたけど、たいへんだ。先生に助けられながらなんとか登った。
これ以上、ぼくにはもう昇られないというところまで来ると、のんのん先生が
「——あれです。見えますかね?」
岩の上を指さす。
たしかにそこにはめずらしげな白い花が咲いていた。
「ジェームスくんに引き抜けますかね?」
「いける?ジェームス?」
ぼくの声に、トカゲはしっぽでほほをなでかえすと頂上めがけてまっすぐに飛んでいった。
花までたどりつくと、器用に口で茎をくわえてなんとか引っ張り抜こうとする。
「そう!なるべく花びらを散らさないように!」
「よし行け!もうすこし……よし、うん!……ああ!……やった!」
ジェームスは、ぼくらの期待に見事にこたえて花を引き抜くと、くわえたままこっちに滑空してくる。
——よし、やった!さすが、いい子だ!
ぼくが手を広げてむかえ入れようとした、そのとき……
ビュン!
物騒な音とともに、空飛ぶジェームスのすぐそばをぬけて行ったのは
矢だ。
見ると……なんてことだ!ぼくらがいる反対方向の岩下から、ネズミが矢をつがえて射上げてる!




