アチラのお医者さんと地下決戦4
「それに、あのモドキはあなたのことを追い回し続けるでしょうね。そのアリノタカラが欲しいでしょうし、またハガネアリ女王位の正統な継承者であるあなたが生存しているかぎり、枕を高くして寝ていられないでしょうから。
どちらの暮らしがよいかなど、わたしには言えません。あなたご自身の判断です」
ちょっと突き放した言いかただ。
ほんとうに、彼女が自分で決めるしかないことなんだろう。
アリは考え顔で触角をまわすと、決然とした口調で
「いま巣にのこっている働きアリたちは、あたくしにとって姉に当たります。あんなニセモノに姉たちが奴隷として支配され酷使されるだなんて、ゆるせませんわ。亡き母に対して顔向けができません。あたくし、なんとしてでも母の王冠と巣を取り返します」
覚悟をきめたらしい。
先生は「そうですか」
うなずくと、ぼくのほうを向いて
「……今、この地下世界ではアリとネズミ、そしてゴブリンたちが戦争状態にあります」
けわしい表情で言った。
「もともとハガネアリは、女王の意向で上……かむのの街とは良好な関係を保っていたんです。特にゴブリンたちとの関係は良好でした。ゴブリンは手先が器用ですから、ハガネアリが提供する地下資源をもとに、アクセサリーなどの見事な工芸品を生み出します。
その一部をキラキラ好きの女王アリに還元することで、交易が成り立っていたのです」
ジョーンズが
「大事なBusiness Partnerでござんした」
良い発音で言った。
「しかし、そこに下のネズミとハガネモドキアリが結託してハガネアリの巣を奪ったことが、今回の戦乱のもとです。
あの妖鼠や妖鼬は前からかむのにもどりたがっていましたが、かむののアチラモノはそれをゆるしていません。ハガネアリの女王も、彼らのことはきらってました」
先生のことばに
「あのネズミたちはコチラモノを裏切って追放されたって、セバスチャンに聞いたよ。呪われているって……」
ぼくが言うと
「——まあ、そう言えますかね。とても古い話なんですよ、あのネズミやイタチの先祖が粗相をしたのは。恩を欠いた相手はもうこの世にいませんから、ゆるしを乞うこともできない。
『さまよえるオランダ人』のように、救われずに何世代も時がたってしまいました。そのあいだにあれらの一族は、上に対する憎しみを募らせてしまった」
悲しげにため息をつく。
オランダの人がどう関係するのかはわからなかったけど、先生にもどうにもならないことらしい、というのはわかった。




