アチラのお医者さんと地下決戦3
「その……モドキアリだっけ?ニセモノの女王は、先生が特別なアリノタカラを持ち出したって怒ってたよ」
思い出して言うと、
先生は
「ああ、それはわたしではなく彼女が持ち出したものです」
そう言って、後ろのテントを見た。
その時まで気づかなかったけど、テントの中から恥ずかしげにぼくらをのぞいているのは、一匹のハガネアリだった。
先生が「お出まし願えますか?」とたずねると、おもはゆげに外に出た。
いまだ幼いらしいそのアリには、他のはたらきアリとちがって羽が生えていた。そしてそんなまだ小さな彼女が抱えているのは、不釣り合いに大きな一匹のアリノタカラだった。
「彼女が抱えているのが、その特別なアリノタカラです。ひとつの群れの中に一個体しかいない、女王のアリノタカラですね。このアリノタカラが出す特別な鉄甘露を摂取するのは、ハガネアリの中でも女王アリのみです。女王の力のもとと言ってよいでしょう」
少女アリは、先生の話を聞きながらそのアリノタカラの出す分泌液をチョロチョロなめている。ということは……
「ええ。彼女が、女王がのこした最後の娘……新女王となりうるハガネアリの王女です」
ふうん……なんだか複雑なことになりそうだなあ。
先生は続けて
「モドキアリとしては、もちろんこのアリノタカラを奪う気でした。この鉄甘露を摂取しつづければ、彼女もほんものの女王ハガネアリなみの力を得ることができますからね。逆に言えば、だからこそ女王は是が非でもこのアリノタカラを自分の血筋にのこしたかった。だから王女に持たせて、わたしといっしょに巣から逃がしたのです」
王女アリは上品な様子で
「……のんのん先生。ほんとうに、あたくしが女王になる資格があるとお考えでしょうか?」
触角を上品にクリクリ回しながら問う。
「すくなくとも、遺伝学的にはそうでしょう。そして、あなたは先代の女王が新女王となりうると判断した個体です。他のふつうのハタラキアリとはちがう」
「あのモドキと戦い、巣を取り返すことができると?」
さらなる問いに
「——それは、あなた次第でしょうね。あなたがよそで新たなコロニーを一からつくるというのも、生存戦略としてはあると思いますよ。ただその場合、あなたにはそのアリノタカラはあっても、あの歴代の女王ハガネアリが戴いてきた王冠がないわけですから、息をひそめた暮らしになるでしょう」




