アチラのお医者さんと憑物たち2
「――その日、あるじは大きな仕事を請け負いました。
土地の親分衆がひらいた特別な花会に、世話になってる親分の名代として参加することになりましたんでございます。
あっしら三匹は、あるじの一世一代の晴れの場だと遮二無二はたらいて賭場を動き回りました。おかげであるじは会の前半、これまで一度もなかったほどの大勝ちをしたんでございます。
しかし、幸運はそこまででした。
あっしらの前に立ちはだかったのは、大きくとぐろを撒いたミィでした」
「みぃ?」
「巳。へびのことです」
ぼくの疑問に、先生がこたえる。
「へえ。あっしらとおなじく術師につかわれた蛇型の憑物です。親分衆の中に憑物使いをやとってたのがいたんでさ。
そのミィは、そのころのあっしらにはとてもじゃねえけどかなわない強力なモノでした。一方的にやられたあげく、アオタヌキやクロタヌキはそいつに呑まれましたが、あっしだけかろうじて逃げ出したんでございます」
そこで、シロタヌキはことばを切った。
呑まれたきょうだいを置いて逃げたシロタヌキのつらさのほどは、想像もできない。
「その……きみたちのあるじさんはどうなったの?」
ぼくの問いに、シロタヌキは
「途中であっしらがいなくなったんですから、あるじのツキはガタ落ちです。これ以上ないってぐらいボロ負けしました」
苦しそうに
「――そして、焦ったあるじに『魔』がさしやした。
花会の最後に、イカサマなんぞに手を出しちまったんです。
当然、すぐバレやす。
親分の名代で参加したのにそんな恥知らずのマネしちまっては、いけやせん」
話がそこまでくると、もうシロタヌキの声には表情がなかった。
「あるじは袋たたきに会って死にました。
あっしは、あるじの死体が川に流され海に行くまでついていきましたが、そのあとは魚に食われてバラけちまってね。追うに追えなくなりました。
そうして、あっしは野良のアチラモノになりました。
――ぶきっちょで、一度もしたことがねぇイカサマなんぞしてうまいこと行くはずねぇのに。
ほんとうに、バカなあるじです」
それがシロタヌキの、重すぎる身の上話だった。




