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あやしの診療所―のんのん先生とぼく―  作者: みどりりゅう


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アチラのお医者さんと憑物たち1

 さまざまなモノがまじった奇妙な怪物と行者が闘ったあと、のんのん先生は行者がバラしたその怪物の部分部分をていねいに集めて、診療所につれかえった。


 そのバラしたモノのなかには、シロタヌキと同族のクダギツネ……アオタヌキもいた。


 のんのん先生がもはや形を保つことができず球状のオーブとなったアオタヌキを治療棚に納めると、シロタヌキはいつもどおり床に片膝をつけたまま、ぼくたちに身の上話を始めた。



「――先生のお見立てどおり、あっしとアオタヌキそしてクロタヌキは徳川の御代みよの終ぇ(しめぇ)ごろ、上州じょうしゅうの陰陽師によってこさえられた憑物……クダギツネでございます。

 陰陽師と言っても、あっしらの元のあるじは術のほうは半可通の、ほとんどただのバクチ打ちでございました。バクチの「ツキ」をあげるためだけに「ツキモノ」をつくった……というトボけた野郎です」

挿絵(By みてみん)


 悪態ふうに言っているけど、シロタヌキのことばには親しみがあった。


「あるじはサカイモノというには程遠い、あっしらのことをロクに見ることもできない程度の術師でしたが、孤独な身の上ということもあって、あっしらクダギツネを丁寧に育てました。毎日あっしら三匹に向けて、きたねえダミ声で子守歌なんか歌ってねぇ……そりゃ、やかましくてしょうがありやせんでしたよ」


 わらってる。このアチラモノがこういう表情を見せるのは初めてだ。


「あっしらがクダギツネのくせに『タヌキ』の名を持つのは、ほかの術師に安易に名を明かされ縛られることがないように、とのあるじの備えです。

 今でこそあっしもそれなりに強くなって、出会った先生にすぐに名を明かされても何ということもございませんでしたが、特に生まれたてで弱っちいころの憑物にとって、真名まなを知られ呼ばれることほど危ねぇことはないですからね。そのまま支配されかねない」


 ふうん、簡単に呼ばれないようにキツネなのにタヌキか。工夫してるんだな。

 先生によると、アチラモノ……特に憑物の類に名をつけるときは、むやみに長い名にするとか発音しにくい名にするとか、なにかしらひとひねりするのが一般的らしい。

 ぼくはジェームスにもダットにも、そんな気づかい少しもしなかったけど


「いいんですよ。彼らはもともと特別なアチラモノですから」

 って、先生が言ったから、まあいいんだろう。


 今は、シロタヌキの話だ。


「そうして育てられたあっしらを、あるじは賭場につれていきました。なにせ、そのためにあっしらツキモノは生み出されたんですからねえ。

 見えねえところであるじにツキを持ってくるのが、あっしらの仕事でした」


 よくわからないけど、バクチ場では勝負の運……ツキってのが、こっちやあっちらへとピョンピョン飛びかっているものらしい。


「あるじがカネをかけるたびに、なんとか良いツキをこっちに持ってこようと賭場をかけまわるんですが、どうにもウチのあるじは勝負ごとがダメでねぇ……せっかくあっしらが苦労して持ってきた運もすぐ減らしちまう。

 だから、なかなか大勝ちというものができない男でございました。

 まあ、それでも勝てる日もございますから、あっしらもそれなりに楽しんで、ただ毎日をうかうかと過ごしていたんでございますが……」


 それまでやわらかかったシロタヌキの口調は

「そんな気楽な渡世は、ある日、突然終わりとなりやした」

 固くなった。


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