アチラのお医者さんと行者さま14
「――ふん。まあいい。おれへの依頼はあくまで暴れるこの妖物の無害化だ。その始末までは受けおっとらん。だいたい細かい分析は苦手だしな、後は好きにしろ。そのかわり制多迦の修理代はチャラだぞ」
「診察代ですね。ええ、いいですよ」
行者と話をつけた先生は、おそらく何百メートルにも伸ばしていたテープを器用につづめる。そのもどるテープのすがたは、まるで意思を持った生きものだ。
「そうですね。言わばこのテープがわたしの式神です」
そうしてバランス・ボールほどの大きさにまでテープ(で囲んだ空間)がちぢむと、その中でそれぞれに凝った何種類かの光があるのが、ぼくにもわかった。
その光のひとつは、赤ちゃんサイズの青いケモノで、目を閉じ丸くなっている。
「先生!こいつは!」
シロタヌキがうれしそうにほえる。
「ええ、アオタヌキです。一度バラけてずいぶん弱ってますが、元の成分……念子はなるべく逃さないようにしましたから、時間はかかるでしょうが回復するでしょう」
その小さく青い、よくシロタヌキに似たケモノが細目をあけた。
「……シロ?」
「アオ!」
「アオ……ごめん。こんなことになっちまった」
その声はひどく弱々しい。口を開くのもやっとなのだ。
「無理するな、だまってろ」
苦しげなアオタヌキは、しかしことばをつづける。
「おねがいシロ……クロをたすけて」
「クロ?まさかクロタヌキまでおめえみたいになっちまってるっていうのか?」
「クロは……」
それが限界だった。アオタヌキはふたたび目を閉じるとケモノのかたちをたもつこともできず、ぼやっとした青い光の玉になった。
「休めてやりましょう」
のんのん先生はその光の玉をテープで丁寧に包みなおし、保護をした。
シロタヌキは歯をきしませ
「――アオタヌキは、あっしらのなかでも気のおとなしいやつです。こんな暴れ方をするやつじゃない」
先生はうなずいて
「そうでしょう。すべては無理な混ぜ方をしたせいです」
「まぜかた?」
ぼくがオウム返すと、行者は
「やはり、そうか。ただの類魂としての霊団化にしてはみょうな混ざり方だと思ったが、こいつらは無理矢理に引っ付けられたものだな?」
言ってることがわからない。先生が説明してくれた。
「霊や念の程度……波長とでも言いますか、それが同じくらいの類が引きあってかたまり……霊団となることは自然なことです。いろんな種類の霊があつまってなにがなんだかわからなくなっていることも、実際にはよくあります。
ただ、このアオタヌキが含まれていた霊団は異常です。程度のちがう念や霊、付喪神のたぐいが波長の親和性もなにも無視して強引に結び付けられています。そんな不自然きわまることをされたせいで、霊たちが狂って怪物のようになってしまったのです」
「――ツキモノに対してそんなことをするなんざ、ゲス野郎だ!」
先生の説明に怒りの声をあげたのは、意外にも行者だった。
さっき護法童子たちのことをただの道具だなんて言っていた人とも思えない。
「たしかに、こいつら護法童子はオレにとってただの道具だ。が、ちゃんと『道具として』大事にあつかうぞ。この怪物をつくった野郎は、モノに対する最低限のマナーってやつすら持ってねえ!オレはモノを粗末にするやつは、だいっきれえだ!!」
そのはげしい口調に、童子がうれしそうに首をたてに振っている。主従で気が合ってるんだな。
「いったい、だれがこんなことを?」
ぼくの問いに、のんのん先生は
「わかりませんが、とにかくいやな予感しかしませんね」
ため息をつくと、テープを丸めた。




