アチラのお医者さんと行者さま12
あの乱暴な行者に様つけなんて、ばかにていねいだと思ったら、そうした方が行者とうまくつきあえそうだからそう呼んだ、って後で先生が言ってた。
プライドが高い人には、敬った感じに接したほうがうまくいくからだって。
「なにせ、わたし自身は別に強くもないただの医者ですからね。よけいな敵は作りたくありません。おもねた方がいいと思った相手には平気でおもねます。プライドなんていりません」
って、みょうに胸をはって言った。
「ちょっとした生活の知恵ですよ。ものいいひとつでことが潤滑に進むなら、わたしはいくらでもヘイコラします」
ってさ。
「なんだ、医者!?こんなところにまでついてきやがって!邪魔だてするようだと、おまえとてゆるさんぞ!」
杖を振り回し怪物とやりあう行者は、うるさそうに大声でがなりかえす。
「そんなことしませんよ!ただ、なんとかそのものを捕獲できませんか!?」
先生がたのむが
「たわけ!そんな余裕があるように見えるか!だまって見てろ!」
すげなく退ける。
護法童子たちがやどった金剛杵が宙を飛び、怪物の身を削ぐ。
「ギャアァァァアッ!!!!」
怪物が、金属音ともケモノのうめき声とも液体が破裂した音とも思える奇矯な声でうめく。
「――くっ!」
その悲痛な声に、思わず飛び出しそうになるシロタヌキをおさえたのは先生だ。
「……行っちゃダメです。ヘタに手を出せば、行者は躊躇なくあなたも調伏しようとするでしょう。そうなったとき、わたしたちではあなたを救えません」
「くぅっ!……たしかに、あんなあさましいすがたになっちまっては滅せられるも仕方ねぇでしょうが、せめてあっしの手で引導を渡してやりてぇ……」
「……それもむずかしいでしょう。もう彼らは調伏の最終段階に入っている……」
先生のことばどおりなのか、行者は刺高の数珠をざらざらと押しもみながら、声をはりあげる。
「――謹請東方降三世明王南方軍荼利夜叉明王西方大威徳明王北方金剛夜叉明王!」
その声にあわせて、怪物を取り囲むような四つの大きな人影が立ち現われた。
「ああ、これもあって交差点を選んだんですね。うまいやりかたです。四つの方向に合わせて四方の明王を召喚した。のこるは……」
「南無中央大聖不動明王!
ノウマクサン・マンダバ・ザラダン・センダン・マカロ・シャナ・ソワタ……」
つづく意味の分からないことば(真言っていうんだって、後で先生が教えてくれた)を唱えるうちに、行者そのものに重なるように、炎にかこまれた猛々しいパンチパーマの巨人の影があらわれた!
不動明王だ!




