アチラのお医者さんと行者さま10
「彼に直接たずねたわけではありませんが、シロタヌキは間違いなく、もともと人に使役されたあと野良になった物霊です。一匹で、きびしいアチラモノ世界を生きぬいてきたんです」
前にアヤツリツカイも言っていたけど、アチラモノの世界で生きていくってたいへんなことらしい。ぬすっとでもしなきゃ生きていけなかったのかもしれないし、そのことを良いとか悪いとか、ぼくがどうこう言えるようなことじゃない。
「シロタヌキが今わたしたちに対して従順な姿勢を見せるのは、もともと人間に仕えた経験があるからです。
彼はわたしに『今までアチラのものは盗んでもコチラ……人間に手を出したことは一度もない』と言っていました。『コチラモノにはあまり関わりたくない』とも。
そんな彼が、わざわざあのめんどくさそうな行者を追いかけています。あの行者は荒っぽいです。妙にかかわってしまうと、細かいことを考えずシロタヌキを滅しかねません」
(メッスってなに?殺すってこと?そんなのいけないよ)
「そんな危険があるのに追いかける……おそらく行者ともめている『あやかし』というのは……」
その先生のことばの途中、コンパスが大きく反応した!
それは、人通りは少ないけど、ふつうに信号がある交差点だった。
信号機の明かりの下、行者や護法童子たちがなにものかと闘っているすがたが(暗いけど)見えた。
「――ほお、あの行者は手練れですね。うまくあやかしを追いこんだ。
見てください、交差点の三方向にそれぞれこっそり札が貼られてある。あのあやかしはどの方向にでも逃げられると思って四辻めがけて逃げこんだんでしょうが、そこはすでに行者の手によって袋小路となっていたんです。あやかしが四つ辻を好む性質を知った上で張られた、巧みな罠ですね」
のんのん先生は感心して解説してくれるけど、ぼくはそんなことよりもそのあやかしとやらのすがたに目が釘付けだった。
「……なに?あれ」
今までにぼくもそれなりにいろんなアチラモノを見てきた。でも、こんなのは初めて見る。




