アチラのお医者さんと行者さま8
「態度の大きい人でしたね。ゲドウだなんて、先生に悪口を言って」
ぼくがプンスカ顔で言うと、のんのん先生はわらって
「まあ、彼の言っていることはまちがいではありませんからね。
わたしはコチラから見ての善悪なしで、アチラモノを治療します。行者からしたら、自分たちの敵になりかねないものです」
前のハンターとのもめごと(ゴギョウボウズがらみ)も、そんなところがあったな。ぼくが見るところ、のんのん先生はどちらかというとアチラモノよりコチラモノとのつきあいで苦労してる。
「この診療所に来たのも、本当にほかに手がなかったんでしょう。童子に引かれていやいやです」
そうかな?それにしても気性あらくない?
ぼくへのあたりもきつかった。
「きびしい修行をして法力を身につけた者によくある態度です。たいへんな努力をしたぶん、自分は他人よりえらいと思いがちなんですよ。だから、あなたみたいにもとから優れた力を持っているものがきらいなんです」
すぐれたって言われてもな。それに、さっきみょうなことを先生言ってたな。
「あの人はお坊さんみたいなものでしょ?なのに、仏さまを信じてないんですか?」
ぼくの疑問に、のんのん先生はあごをかきながら
「うーん。死んだあとあの世でお釈迦さまに会えるとか、そういう意味での信仰はあの行者にはないですね。彼にとって神仏への帰依とは、あくまでこの世で自分が力を出すための道具です。あの護法童子たちといっしょですよ」
よくわからない。でも、あの行者がなんだかとてもドライな感覚で、修行というか仕事をしてるんだというのはわかった。
先生は続けて
「それよりも気になるのはあの制多迦童子が負ってた傷です。あの感じはどうも……
ねえ、シロタヌキどう思いますか?……って、あれ?いない?」
棚と壁のあいだにひそんでいたはずのシロタヌキは、いつの間にかいなくなっていた。
待合室にいたヨシノさんに聞いても「知らない」と言う。
「だまって出て行ったみたいですね」
ぼくが言うと
「わたしたちに何も言わずですか?あれで、彼は礼儀挨拶にうるさいんですよ」
ちょっと考えるしぐさを見せたが
「……行者たちを追いかけたんですかね?」
「行者を?なんで?」
先生は、ぼくの問いに直接答えず
「――追いかける必要がありますね。ややこしくなっているかもしれない」
そう言うと、机の引き出しからちっちゃな盤をとりだした。
弓矢をかまえた、下半分が馬の男の像がのってる。
「こういうことは、患者さんのプライバシー保護の観点からするとあまりしたくないんですが……」
のんのん先生はぼやきながらその盤の下蓋に、さっき少しけずった制多迦童子の霊体のかけらを入れた。
するととたんに像が動いて、かまえた矢が一定の方向を指し示す。
「これで童子の位置がつかめます」
すごい。羅針盤みたいだ。
「追いかけましょう。事情は道すがら説明します」
そう言うと、先生は診察カバンに適当に道具を入れて診察室を飛び出した。
(先生が「ついてきますか?」といちいち聞かなかったことが、ぼくにはうれしかった。本物の助手になれた気がして)




