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あやしの診療所―のんのん先生とぼく―  作者: みどりりゅう


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アチラのお医者さんとエルフの親子9

「ほんとうですか?このペンキで体をわるくするようなことはないでしょうね」


「なんだ?もしかしてエアーノスの調子悪いのがうちのペンキのせいだっていうのか?なにふざけたこと言ってる。さては、あの自然至上主義のエルフ女に吹きこまれたな?

 おまえも医学やってるんならよく知っているはずだ。人工物より天然物のほうが安全だなんて、根拠のないたわごとだってことはよ。自然だろうと人工だろうと、体にいいものはいいしわるいものはわるい。うちの化学製品の安全性は長年の実績からたしかだ!アチラモノにもコチラモノにもな。

 だいたい、うちのペンキを吸って体をわるくするなんて、そんなもの、うちの商品がわるいんじゃない。その吸ったやつの体のほうがわるいのさ!」


 なんだかメチャクチャなリクツだ。


 先生はあきれ顔でペンキ缶を見わたしながら

「オオヨダレクリ以外、ほかになにもアチラの成分はつかってないんですか?」


「ああ、ほかのも試したいんだが、いそがしくて手が回らなくてな」


「そうですか……。ところで、あなたのところでは、さまざまな種族の職人さんをお使いですね」


「オレはコスモポリタンだからな。種族のちがいにこだわらねぇ。ただ、うちはコチラモノ相手にも仕事をするから、人間のかたちを取れるやつしか雇ってないな」


「ふむ。――ときに親方、お宅の職人さんは、たとえばコチラの今ドキの若者のように、体にタトゥーを入れてもいいんですか?」


「タトゥー?ああ、入れ墨のことか?バカ言え、そんなものゆるすわけがねえだろ?いま言ったようにうちの仕事はコチラモノと接することが多いからな。まだまだ今の日本じゃそんなものを職人が入れていたら、商売の信用にかかわるぜ。禁止だ、禁止、そんなもん。だいたい、ほこり高いアチラモノの肌にそんなもの入れるなんてただのバカのやることだ。俺たちの世代には考えられないぜ」


 ドワーフの親方が、エルフママと同じことを言っているのがおかしかった。


 親方は言いながら思い出したように

「そういや、二か月ぐらい前にジャックの野郎が『入れ墨入れてもいいですか?』なんてこと聞いてきやがったから『バッキャロ!ダメに決まってんだろ!』って、どやしつけてやったぜ」


 先生の目が光った。

「二か月前ですか?そのジャックという職人さん、いまおられますか?」


「ああ、あの野郎だよ。ジャック!ちょっと来い!」


 ジャックというのは、さっきの小さな職人さんだった。

 彼は急によばれて緊張していた。


 先生は

「あなたはゴブリンだね。あの中古タイヤ置場の地下に住んでるものかい?」


「――はい、そうです。イギリスから来ました」

 鼻の下にヒゲを生やしているからわかりにくかったけど、ジャックさんはまだわかい職人さんみたいだ。


「親方に、タトゥーを入れてもいいか聞いたんだってね?」


「はい。でもダメといわれました」


「それで、入れてないんだね?」


「――もちろんです。親方にさからうなんて、はい、しません」

 ジャックさんは親方の顔を横目でうかがいながら、おどついた表情で言った。

挿絵(By みてみん)

「先生、そいつはおれも保証するぜ。うちの職場は体についたよごれを取るため、みんなで銭湯に行くことも多いが、こいつの体に入れ墨なんてものは入ってねえよ」


 親方のことばに先生はうなずきながら

「そうですか。しかし、もし親方が許可したらタトゥーを入れるつもりだったとして、いったい、どうやったらタトゥーなんてものをキミの体に入れるのかな?わたしの知るかぎり、アチラモノの体にはコチラモノのようなタトゥーを入れるなんて、まあできないと思うんだが」


 そう問われたとき、ちょっとジャックさんの目は泳いだ気がしたけど

「――そうだったんですか?それは、おれ知らなかったです。じゃあ初めから、そんなことするのムリだったんですね。おれがただのバカでした」

 と、ヘラヘラわらうように言った。


「そうだ。おまえなんてただのバカなんだ。よけいなこと言わずペンキねってりゃいいんだ」


 親方の言いたい放題を無視して、先生はつづけてジャックさんに

「――そのタトゥーを入れようかという話は、エアーノスくんにはしましたか?」


「えっ?エアーノスですか?……いえ、どうだったかな?してないと思うけど。どっちみち入れられないんなら、いっしょでしょ?そんなもの。へへっ、エアーノスに聞けばいい」


 卑屈げにわらうゴブリンに親方が

「いまエアーノスは病気なんだってよ。おまえ、なにか知ってるか?」


「エアーノスが病気……」

 聞いたとたん、ジャックさんの顔色が変わったようにぼくには思えたけど、気のせいだろうか?


「ええ。あなたは、彼のようすにヘンなところは感じませんでしたか?」


「いえ、おれはそんな……なにもないです」


「――そうですか」

 先生はそうやってジャックさんと向きあいながら、やっぱり鼻をひくつかせていたが

「……いや、おじゃましました。ありがとうございました。みなさんにうかがったことをエアーノス君の治療に役だてたいと思います」


「おう、とっとと治してやってくれ。別に今晩から出勤してもいいんだぞ。給料は明日分からしか出さんが」

 アチラモノづかいのあらい親方の言いぐさに、


 先生は

「ただしくお金とアチラモノをつかわないと、また損しますよ、親方。それと、やっぱり一度うちに診察に来てください。あなたの症状はどうもまだ良くなっていないようですから」

 と、言い置いて去った。


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