アチラのお医者さんと行者さま1
ジェームスとぼくは放課後、コーポまぼろしに行った。
梅雨の晴れ間で外はとてもムシムシ暑かったけど、先生の診療所はクーラーが入ってるから、汗をかいたぼくには肌寒いくらいだ。
ヨシノさんは勘がいいから、ちょっとお腹がゴロゴロして調子の悪いぼくにあわせて、あったかい甘酒を出してくれた。
「――たしか甘酒ってのは夏の季語なんでしたか。
『半七捕物帳』に『あま酒売り』って話がありました。むかしはそんなふうに売り歩いてる人がいたんですね。滋養強壮をつけるために飲んだんですかね?」
ぼくがふうふう言いながら熱い甘酒を飲んでいるのを見ながら、のんのん先生がたわいもないことを言う。
そんなこと聞かれても、ぼくは知りっこない。捕物帳って言われても、ぼくはそういうの読んだことないし。
「そうですか。けっこうためになることが載ってますよ。岡本綺堂や泉鏡花の書いたものは、あなたみたいな方は、読んどいたらいいと思いますけど」
また今度考えときます――と、やんわり断った。
それよりも今は、めずらしく診療所にシロタヌキがいたから、そっちの方が気になるんだ。
彼はもともとアヤツリツカイ傘下のぬすっとだったんだけど、ぼくらとちょっともめたあと、改心(?)して先生の配下になることを誓ったアチラモノだ。
今は先生の求めに応じておつかいや調べもの、時にはひそかな見張りや尾行までしている。あの腕利きの妖刀つかい・坂上さんにも気取らせなかった、とても優秀な密偵だ。
アヤツリツカイがその配下から手放したのを惜しんだのもよくわかる。
そんなデキるアチラモノ・シロタヌキは、診療所でもイスに座らず床にひざをついている。
やめてくれって、先生もぼくも言ってるのに聞いてくれないんだ。




