アチラのお医者さんと光るトカゲ2
そのときぼくはあわててたし、まちの人はドライで、ハネのあるトカゲぐらいじゃおどろかない、たとえおどろいたとしてもそれを顔には出さないんだろうと思っていた。
そんなことをしているうちに
「あれ?この郵便局?」
なんだか見覚えのあるところに出た。そう、そこはもうぼくが住んでる団地のすぐ近くだった。ぼくは帰ってこられたとの思いでホッとしたけど、カゴにはまだケガをしたトカゲがいる。どうしたらいいと聞くと、彼は通りのおくまった所にあるおんぼろアパートを矢印で示した。
「コーポまぼろし」と書いてある。
「ここ?」
トカゲはシッポの炎で1・0・2というかたちを順番に出した。
102って部屋番号のことだよね。ぼくは自転車をとめると、おそるおそるその二階建てのアパートの一階の奥に入っていった。表札を見ると「野々村」。
その時になってはじめてぼくはハッと思った。いったい自分は何をしようとしているんだろう?こんな見ず知らずの人の家に急にこどもが一人、傷ついたトカゲを持ってやってきたって相手にされるはずがないじゃないか。このトカゲに連れてこられましたなんて言ったら、アタマがおかしいと思われて警察を呼ばれるかもしれない。
そしたらお母さんが呼び出されて、ぼくはすごく怒られるか、もっと悪くしたら病院に送られるかもしれない。そんなのこわくて仕方ない。
「バカなことはやめておけ」
って心の声がする。……なのにぼくはインタホンを押すことをやめることができなかった。目に見えない何かにせっつかれてるみたいだった。
「ピンポーン」
ああ、おしちゃった。
するとすぐにぶっきらぼうな感じの女の人の声で
「どちらさまですか?」
ぼくは何をどう言ったらいいかわからなくて口をもごつかせた。
「なにか御用?」
そのあっさりとした言いかたに、ますます気は急いて、思わずさけんだ。
「あの!ひかるトカゲがケガをしてるんですけど!」
……言っちゃった。もう無視されるか怒られるにきまってる。
でも、女の人はつづけてあっさりと
「患者さんですね。どうぞお入りください。カギは開いています」
扉を引くと髪をポニーテールに留めた青白い顔の女の人が看護師さんの格好をして立っていた。
「どうぞ、スリッパに履き替えてください。すぐお呼びしますので、そちらに座ってお待ちください」
女の人が指さす先には、ぺろんぺろんのクッションが置いてある丸椅子が4つ並んでいた。
そうか。ここは動物病院なんだ。雑誌も本も何も置いてなくて、ぼくがふだん行っている歯医者さんとは全然フンイキが違うけど、これはこれで待合室なんだろう。
椅子に座ってみたけど、手のひらに包んでいるトカゲが弱ってるみたいで心配だ。光もうすくなっているみたい。
そのとき、ぼくはリュックサックにつけている招き猫のキーホルダーが取れていることに気付いた。まわりを見ても見つからない。あれは前の学校のクラスメートに、お別れの記念でもらったばかりのもので大事にしてる。図書館か公園で落としたのかもしれない。もう今日は暗いからあした探しに行かなきゃならないな。そんなことを考えていると
「ひかるトカゲさん、どーぞ」
呼ばれたので奥の部屋に入った。その途中に水槽があった。なんだか、中にいる魚が人間みたいな顔をしている気がしたけど見まちがいだろう。そんなことより今はこの子のケガが先だ。