アチラのお医者さんとなぞの玉2の8
これは、とんでもないことになりそうだぞ。
もしあの群れがシチノスケを奪い返しに行ったのだとしたら、かくまっているグラサンの群れとの激突もあるかもしれない。
こりゃ、見に行かなくちゃ!(けっして、ぼくはただの野次馬なんかじゃないよ。きのう出会ったおサルさんたちのことが、のんのん先生の助手として心配なだけさ)
あれだけのすごい大移動なのに、ぼく以外のものには見たり聞こえたりしてないから、ぼくは教室の中でただ一人、早く学校終わんないかなぁとやきもきして、ちっとも勉強に身が入らなかった。(けっして、ふだんから勉強に身が入っていないわけじゃないぞ……たぶん)
学校が終わると、ぼくはランドセルをせおったまま北西の貨物駅に向かった。ちょっと雨もよいで暑苦しい。
より道は良くないかもしれないけど、こういう非常事態にはしかたないさ。
のんのん先生も
「ルールなんてものとのつきあいは、とろけんばかりにゆるくしといてちょうどいいです」
って、言ってたもんな。
ぼくが先生よろしく自分の都合のいいように物事を解釈して速足で歩いてると、首まわりにいるジェームスがなにやら小突いてくる。
どうしたの?とふりかえると……
ギョッ!
いつのまにか坂上さんが、ぼくのななめうしろ1メートルのところをだまりこくったままピタッとついて来てた。
もおっ!暗殺者じゃないんだから、気配も出さずぼくの背後を取るのはやめてほしい。心臓に悪いじゃない!
そんな、こっちのふためきを完全に無視して同級生は
「あれ……あなたの知り合い?」
当たり前にたずねてきた。
……まあ、そりゃそうか。坂上さんはぼくとおんなじサカイモノなんだから、あのハデなイワザルの移動を見逃すはずがないし、気になるよね。
ぼくは歩きながら、少女に一連の事情を説明した。
「――また、やっかいなことに首をつっこんでるのね。でも、話を聞くかぎり、あなたはもうそのサルたちのもめごとには関係ないんじゃないの?
……もしかしてこれって、ただの野次馬なんじゃないの?」
ぼくは内心ギクリとしたけど、そこはダテに最近あの先生を横から見てたわけじゃない。
「そんなことないよ!なんたってぼくは、のんのん先生の助手だからね。ことのなりゆきを見とどけないと!」
せいいっぱい胸をはって、テキトーなことを言ってやったさ。
「……ハッタリは大事ですよ。自信がありそうに言うだけで、大抵のことはけむに巻けるものです」
って、これものんのん先生が言ってたもんね!
坂上さんは、うろんな目でぼくをジトーッと見たけど
「――まあ、いいわよ。とにかく、きみだけだと危ないでしょうから付いていってあげる」
すぐ保護者みたいなこと言うんだもんなぁ。自分だって見に行きたいくせに、素直に言わないんだから。
でも正直、坂上さんについてきてもらったほうがうれしい。
第一、安全だ。
なんせ研ぎ師のチュウゴロウと仲良くなって以来、愛用の妖刀・松風もつねに研がれてバッチリの状態だからね。たいていの危機に対応してくれる。




