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あやしの診療所―のんのん先生とぼく―  作者: みどりりゅう


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アチラのお医者さんとなぞの玉1の15

 そして、つづけて

「――とはいえ正直なところ、いくら薬を投与したところで症状が治りきることは考えにくいです。

 やはり、テツオにはだまっているとしても、群れ……ハナキキの社員には彼の状態を正確に伝えておく必要はあると思いますよ。群れ全体で彼を見守るかたちをとっておかねば、大きな問題が起こってからでは手おくれになります」


 そのことばにまたうなだれるムサシに、先生はやさしい口調でつづけた。

「これは、なにも恥じるような問題ではありませんよ。安定的な生活を手に入れたあなたがたカムノヤマイヌは、昔よりはるかに長生きするようになりました。そして今、テツオが直面している老いと病の問題は、今後あなたがた全員にふりかかってくる問題です。

 いわば、あなたの父上は将来おそい来る群れへの困難に対しても、先頭を切って立ち向かっているのです」


 先生のことばに、若き狼は耳を立て顔をあげた。


「そのような先駆けの道を行くリーダーを、なにを恥ずかしく思うことがありますか。先んじて困難に向かう父親をささえるのも、これから群れを率いていく二代目としての、あなたのつとめだと思いますよ」


 なんだかむずかしくてよくわかんなかったけど、たぶん先生はいいこと言ったんだろう。


 ムサシ狼は感激した様子で

「……そうでした。わたしが恐れていてどうしましょう。思えば、わたしどもは今まであまりに父・テツオによりかかりすぎていました。偉大なあまり、彼をささえるという考えもありませんでした。

 そう、今後はわたしどもの世代が群れを引っ張っていかねばなりません。

 今までなかった老狼をささえる社会のシステムが必要なのですね。ちょうど、父が経済活動を群れに導入したように……」


 かしこいオオカミだな。言ってることがむずかしいよ。


 ムサシは深く感じ入った様子で

「のんのん先生、どうもありがとうございました、今後ともよろしくお願いいたします」

 ていねいに頭を下げると、処方された薬入りの袋をくわえて診療所をあとにした。


 ほんと、きちんとしたオオカミだ。

挿絵(By みてみん)

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