アチラのお医者さんとなぞの玉1の11
ムサシはテツオたちの前をはなれると、もといた場所にはもどらず、しげみをぬけた崖そばに出た。
そして、あたりを見わたすと土を掘り返し始めた。
そこにあったのは、いくつかの瓶のフタやガラスのかけら、そして銀色の玉だった。
ムサシはその玉をくわえ出すと、掘り返した土を元に戻した。
そして、きびすを返しふたたびしげみに入ろうとしたとき
目の前に立っていたのは、テツオにのんのん先生、それにジェームスとぼくだ。
もちろん、ムサシのあとをつけていたのだ。
「ち、父上……」
ムサシはくわえた球を落とした。目に見えてうろたえている。
「せがれ。お前のやることなど、わしにお見通しよ」
テツオは悲しげにうめいた。
「先生、せがれがああ言うておりますます。まちがいありません……」
さっき、わらって言ったあと、テツオはしおれたように目をふせて
「……やつはウソを言うておりますな」
ぼくたちにかぼそい声で言った。
「わかりますか?」
「ええ。あやつはむかしからわしに都合の悪いことがあるときには、シッポを左にふりおろす癖があるのです。何事かかくしだてしているのはまちがいありますまい」
そして、みんなであとをこっそりつけてきたのだ。
テツオは問答無用でムサシにとびかかると、その首根っこをかじり飛ばした。
ムサシだって大きなオオカミなのに、それをたやすくぶん投げるだなんて、テツオはすごい力だ。
けっこう年だろうに、さすがカムノヤマイヌのボスだ!
「貴様というやつは!われらカムノさまの眷属としてほこり高きヤマイヌが、そこいらの犬っころのようにあさましいモノ拾いに執着するとは!恥を知れ!」
涙を流してほえ叱る父狼に対して地面にたたきつけられた子狼……ムサシはただうなだれて、なにも言わない……というか言えないんだろう。
のんのん先生は転がった銀色の玉を手に取ると
「これはただのゴムボールですね。われわれが探しているものとはちがいます。気にせずとも大丈夫ですよ」
そのことばに、ムサシは少しほっとしたように見えた。
が、しかし父狼の怒りはおさまらない。
「そうはいきません、先生!わが群れからこのような恥さらしの習癖を持ったものが出るなど恥辱のかぎりです!群れを追放させねば!」
そんなオーバーな!たかがモノをかってに拾い集めたってだけで!




