アチラのお医者さんとなぞの玉1の9
先生はあわてて
「い、いえ、そんな。ただ拾った可能性があるというだけです」
つくろうが、テツオは取り合わず
「いっしょです!
われらカムノヤマイヌは、このハナキキ・カンパニーという企業体を起こす際に近代化をおしすすめました。それまでの本能のみにもとづく行動をあらため、現代を生きる狼としてコチラモノにも負けない社会性、公共道徳の涵養につとめてまいりました。そこいらのイヌコロどもとはちがうのです!安易なモノ拾いなど、厳につつしんでおります。――なあ、ハナコ」
代表のことばに新狼は
「は、はい。それはもう!そんなあさましいことは……はい!けっしてするものではありません!」
低頭している。
やはり、この会社は規律がきびしいみたいだ。
先生も首を大きくたてにふり
「そうでしょう、そうでしょう。あなたがたカムノヤマイヌの現代化は、あまたいるかむののアチラモノのなかでも特にぬきんでたすばらしいものです」
十分にほめちぎった。
そのうえで
「……とはいえ、種族としての習性上やむを得ないものもいるのではないかと思います」
控えめに発言した。
「――ぐるるぅぅぅぅぅぅぅっ!」
テツオ狼は不満げにうなると
「ふむ!その目撃によると、そのうたがわしい四つ足には縞模様があったのですな!……よし、ハナコ。ムサシをつれてこい!」
「はっ、はい」
「当社……うちの群れで縞模様のあるものと言えば、せがれのムサシです。呼んで問いだせばよかろう」
白黒きちんとつけにゃ、おさまらぬ巨狼の一声にハナコ狼はあわてて飛び出していった。
すっかり気分を害したテツオ狼にのんのん先生もぼくもなにも口を利くことができず、ただ押しだまっていたが、しばらくすると
「――父上、なにかお呼びでしょうか?」
ハナコを引きつれ入ってきたのは、テツオほどではないにしろ大きな体格を持ったオオカミだったオオカミだった。
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ムサシ狼はわかわかしく精悍で、やる気にあふれている。そして、その背中には、たしかに黒いすじ模様が走っていた。
「おう。よく来てくれた。仕事の途中じゃなかったか?」
「いえ、もうミーティングはすませてあります。あとはスタッフがかってに動いてくれます。グルッフッフッ」
ぼくにはおそろしい声でうなっているようにしか聞こえないけど、たぶん快活にわらってるんだろう。
いかにもやり手な感じだな。
「テツオ狼が現役でバリバリやってた頃は、テツオ自体が率先して動いて会社をひっぱってましたけど、息子の代になってやり方も変わったんですね。自分は動かず上層部としてスタッフの指示や管理に徹する……大きくなる企業のやり方をちゃんと取ってますよ。たいしたものです」
あとで、のんのん先生が感心したように言ってた。




