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あやしの診療所―のんのん先生とぼく―  作者: みどりりゅう


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アチラのお医者さんとなぞの玉1の3

「やあ、あなたがたは……めずらしい。こんなところに来るなんて。どうかしましたか?」


 えっ?先生がおどろいてるってことは、このものたちが予約してた患者じゃないんだ。


 そんな予想外のお客たちの一番まえにたつ四つ目のみどりは、なにやら透明の虫取りかごらしきものを持っていたのだけど、それをだまって前に突き出した。


 そのかごから

「……のんのん先生、ごめんよ。おいらにゃココしか、たよるところがなかった」

 と、かぼそい声を出したのは、なにやらうすぐろいモヤッとしたものだった。


 アオグロネチョネチョみたいなはっきりグロじゃなくてもっとぼやっとした、まるで


「――おや、ヒカゲモノ。あなた、いったいどうしたんです?抜糸もまだなのに」


 そう。まるで影のようなうっすらとしたものだった。

 その影のようなものはただおそれ弱っているようで、口ごもっている。


 そのかわりに口を開いたのはかごを持つ四つ目のみどりだった。たどたどしいもの言いで

「コイツハ、ワレワレノ、ダイジナ、モノヲ、トッタ。ダカラ、ツカマエタ」


「……とった?ああ、あなた、また悪いくせが出たんですね」


 先生のあきれ声に影は

「へへっ」


 その声は細いけど、意外と悪気を感じてなさそうななさそうだ。


 先生はぼくに

「この『ヒカゲモノ』はふだんアチラモノやコチラモノの影にひそんで暮らしているんですが、すがたが見つかりにくいのをよいことに、たまにひとのものをスリとるんですよ。

 やめとけって言ってるのに……めんどくさいんで、くわしくはたずねませんでしたが、どうせそのケガも、スリとったときに負ったんでしょう?」

<i|30660>

「へへっ。先生ったら、お見通し」


 よく見ると、そのぼやっとした影には縫い目が見える。

 影を縫いつけるなんてよくやるなあと思ったけど、後で先生に聞いたら


「そんなにむずかしいことでもないですよ。『ピーター・パン』でも女の子が縫ってたでしょ?」


「でも、あれはおはなし……」


「いえ、あの話はイイ線いってますよ。アチラモノ世界を理解するには良いものです」


 そう言って、古い映画好きの先生はピーター・パン映画の歴史……ディズニーのアニメとか、それより前の白黒無声映画(「ピーター・パン役の女優が『妖精を助けて!』って、観客に呼びかけたりするんですよ」)の話を楽しそうに始めたんだけど……そんなのは、今はどうでもいいや。


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