アチラのお医者さんとハンター25
ぼくはベティーさんが収容されている棚を見て
「――先生。ぼく、すっかりだまされちゃいました。てっきり、あのベティーさんって先生のお友達の研究者だと……」
言うと、
のんのん先生は背筋をのばし
「いえ。それはウソではありませんよ。彼女……ベティーとわたしは古い友人でしたし、今でもそのつもりです。そして、彼女がアチラモノのすぐれた研究者というのも本当です。医療にもくわしい。
弱ったジャックに対して、彼女は適切な治療をしていました。今、彼が問題なく寝ていられるのは、彼女が初めにちゃんとした応急処置をほどこしたからです」
「へえ」
「そんなアチラモノに精通している彼女だから、わずか一晩で幽体をネチョネチョにしこむなんて荒技も可能だったのです」
どうやら、先生はベティーさんのことを高く評価してるらしい。
つづけて
「わたしも彼女にはいろいろ教わり、また助けてもらいました。特に極地におけるアチラモノ生態について、彼女よりくわしいものはコチラにいないでしょう。たとえば、あなたが初めてこの診療所に来たとき、ケガしたジェームスくんを治療するために使ったコオリムカデのつばやユキハキグモの糸は、すべて彼女が採取したものです。 それらがなければ、ジェームスくんの治療はうまくいかなかったかもしれませんよね」
――ふうん、じゃあベティーさんにジェームスは助けられたんだ。恩人なんだね。
でも、だとするとややこしいなぁ……。
「だって、五行の精を追いつめたのはあの人なんでしょう?先生にとっては敵みたいなものじゃないの?」
ぼくが問うと、
先生は宙を見て
「……まあ、そのあたりは実にあいまいですね。わたしは診療所にゴギョウボウズがたすけを求めて来たから、できるかぎりの処置をして彼らをベティーの目からかくしましたが、そのいっぽうでベティーがハントした多くのアチラモノを医療素材としてつかっているんですよ。彼女は敵と言えば敵だし、協力者と言えば協力者です」
う~ん、むずかしいなぁ。
こんがらがったぼくの顔を見ると、先生はうち笑んで
「かむのでアチラモノにかかわるかぎり、あまり四角四面にものを考えるのは、不利ですよ。その場その場で適当にやっていかないと、身と心が持ちません」
「その場その場でテキトーに」って、先生が好きなフレーズだ。アヤツリツカイと初めて会った時にも言われた気がする。




