アチラのお医者さんとハンター24
名前はもう決めてあるんだ。
と言っても、それはさっき先生から聞いたばかりのことばだ。この子にぴったしだと思ったんだ。
「きみの名前は『ダット(脱兎)』だよ。すぐ、ぼくの腕からぬけだしちゃうからね」
そう言った瞬間、ウサギから空気をふるわす衝撃が発せられたように思ったけど、気のせいかな?
ハンター・メアリーがちょっと白目をむいたように見えたけど、先生やジェームスはなんともなさそうだから、まあいいや。
ダットは、なにも変わりなくぼくのむねにもたれかかる。
ジェームスがそのまわりをとんでる。
どうせ
「――よかったな。これでお前も私の仲間だ。とはいえ、あんまり大きな顔するなよ」
「――あざーっす、パイセン。こっから、おねげーしまっす!」
みたいなやりとりをしてるんだろう(想像)。
「どうやら、彼はその名を受け入れたようですね。よかったよかった」
先生は安気にわらうと、おしだまってるハンターに対して
「メアリー。ホウイチくんが赤い妖魔に名前を付けたということは他言無用でねがいますよ。さすがに、やっかいごとは広めたくないからね……。『ダット』という名は、彼自身が神にでも授かった、ということにしときます。その方がいいでしょう?」
「……はい。もちろん会長には報告しますが、あの方がそれ以上情報を広げることはありえないでしょう。まさか三大魔獣の一柱が名づけされただなんて……そのこどもに核のボタンを持たれたようなものです。そんなこと、おそろしくて一般に公表できません」
意味わかんないことばっかり言うな。
「大げさにとらえなくていいですよ。アチラモノがコチラに友人をひとり得ただけです。それどころか、ホウイチくんがいたからこそ『赤い妖魔』……いや、ダットはこれぐらいですましてくれたのです。本気で彼が怒っていたら、今ごろこの一帯はどうなっていたか……わかってるでしょうね?」
のんのん先生のことばに、
ハンターは恐縮しきりで
「た、たしかにそうです、返すことばもありません。われわれ狩道会としてはあなた、そしてそちらの助手くんには大きな借りができてしまいました」
「ほんとそうですよ。今となっては菓子折りを持って、あなたがたのところにあやまりに行ったのがバカらしい」
「……まあ、そのあたりは会長がなんらかの対応を取られると思いますので、ご容赦を」
メアリーさんはいったん狩道会に報告するため、ハンター・エリザベート……ベティーさんを診療所にあずけたまま去った。




