アチラのお医者さんとハンター14
先生がチュウゴロウの研ぎ処におとないを告げても、反応がない。
「入りましょう」
おとといと同じく、かってに家の中にずかずか入ると(今度はのんのん先生がいるから気をつかわなくていいや)部屋がぐちゃぐちゃに荒らされていた。
片付けがたいへんそうだ。
チュウゴロウ一家に坂上さん、そして松風も見当たらないけど……
「……上?」
なにやら屋根のほうから物音、そしてがなり声が聞こえる。
二階に上がると天井に穴が開いていて、そこから音が入ってきていた。
「ああ、商店街のアーケードの上に出たんですか?ヤネワタリの一族じゃないんだから、わたしは高いところニガテなんですけど」
そうぼやきながらも先生は、テーブルにイスをかさねふむと、天井の破れ目から屋根に上がった。それにぼくもついて行った。
商店街のアーケードに上がるなんて、もちろんはじめてのことだ。
下からだとわからなかったけど、点検や補修のとき用だろうか?金網の通路や階段、手すりとか……がたがたではあるけど、人が動けるけっこう広いスペースがある。たくさんならんだエアコンの室外機が、ウィンウィン音を立てていた。
「今日は朝から曇天だからいいですけど。晴れてたら暑くていられませんよ、こんなところ」
先生がまたぼやく。
そんな本当は長居するようなところじゃないスペースで、いま二つの影が向き合い、はげしい攻防をくりひろげていた。
もちろん、それはふたりの妖刀つかい……坂上さんと銀狼先生(?)だ。
松風と村雨……ともに闇丑光作のアーティファクトが、最高レベルの剣士によって文字どおり鎬をけずっている。
「――ああ、のんのん先生!よくいらしてくださいました!」
声をかけてきたのは、チュウゴロウの愛娘おチュウと弟子のチュウサクだ。仲良く手を取り合って、ふたつの妖刀の戦いを見守っている。そんなむつまじいすがたをチュウゴロウが見たら、また血圧が上がるんじゃないかな?
それよりも今は、あの村雨つかいをどうするかだ。
「でも松風を持った坂上さんと互角にやりあうなんて、やっぱりあれは本物の銀狼先生……って、えっ?」
高所の強風にあおられ頭巾が外れ、はじめて村雨つかいの顔を見たぼくはおどろいた。
「あれは……!?」




