アチラの研究者と逃げた小鬼11
「――ええいっ!もうこうなったらあたしが!」
ベティーさんが腕まくりして、虫取り網片手にネチョネチョに向かおうとする。
「無茶だよ!そんな細い棒で!」
もうだめかと思っていると
「……なんだ?」
急にあたりに赤い……
「……霧?」
うすぼんやりとしたものが広がりだした。
それを見てベティーさんが
「まさか、この霧……『あいつ』が!?」
なんのことだかわからないけど、見ているとその霧は特にネチョネチョのまわりに濃く立ちこめて、それでなんだかクモも苦しそうだ。
「あっ!逃げた!」
たえきれなくなったように、ネチョネチョがその場からのがれていく。
「逃げるな、こんにゃろ!」
勇猛果敢なベティーさんは、声をはりあげると虫取り網を持って蜘蛛を追いかける。
だから、そんな細い棒じゃだめだって言ってるのに!
坂上さんが立ち上がるのを手伝うと、ぼくらもしげみの奥に入った一匹(?)と一人をあわてて追いかけた。
あれ、また見失っちゃったかな?と思った瞬間
――グギャガガヤガガガガン!!!
すごい音がした。
なにごとかと思って、音のしたほうに駆けよるとそこにあったのは……
ぷすぷすと黒こげになってたおれているアオグロネチョネチョ蜘蛛だった。
そのわきには、網を持ったベティーさんがけわしい表情で立っている。
「どうしたの、これ?まさか、ベティーさんがやったの!?」
ぼくの問いに
アチラモノ学者は首をふって
「――いいえ。もちろん、ちがうわ。これは『赤い妖魔』のしわざよ」
妖魔?なにそれ?
坂上さんも目をすがめて
「……この巨大なネチョネチョを、あたしたちの見ていないわずかな間にここまで痛めつけるなんて、とても強力なものね」
「――そう。それはまちがいない。あいつはおそるべきアチラモノ……」
ベティーさんは緊張の顔つきになると
「このネチョネチョは、あたしが回収して『処置』しておく……のんのん先生がいるとたすかるのだけど、いったいどうしているのかしらん?」
本当だ。先生のいないあいだに、いろんなことが起こっている。
訳のわからないことだらけで、ぼくたちだけじゃどうにもならないよ。早くもどってきてもらわないとこまる。
ちゃんともどってくる……よね?




