アチラの研究者と逃げた小鬼10
アオグロネチョネチョだ!
エアーノスに彫られた刺青はドクロ(模様)だったけど、ジャックのは蜘蛛の形らしい。
八本肢を器用に動かして、そこに存在している。
……しかし、これはほんとうに刺青なんだろうか?
だいたい、大きさがドクロの時と全然ちがう!
どう見ても、彫られ先のジャックより大きい……というか大きすぎる!
アカカガチとまではいかないけど、変身した時の鵺郎博士ぐらいある。ちょっとした熊さんサイズだ!
ぼくはひそかに、ネチョネチョがもしあらわれたらエアーノスのときみたいに紙で押さえつけて、みん
なにいいとこ見せてやろうと思ってたんだけど……そんなの無理だ!
こんなおっきい紙はないよ!
ベティーさんが
「ジャックの体をはなれたあと、いろんなものを取りこんで大きくなったのね。そうして自分の体を維持しながら、本来の宿主であるジャックを追跡したんでしょう。
しかし、その執着がすごいわね。最初にネチョネチョに強力な暗示指示を与えたんでしょうけど……ほんと、アヤツリツカイはとんでもないものをつくった!」
あきれてるというより、まるでほめてるみたいな口調で言うんだもの。これだから研究者はあぶないよ。
ぼくなんかはすなおに、今度アヤツリツカイに会ったら「こんなぶっそうなもの作って!」と、あのリスのおしりをペンペンしてやりたい!
ヘビににらまれたカエルのように体がかたまって動かないジャックに、あおぐろい大蜘蛛がそろりそろりと近づき、肢をのばす。
「――いけない!もうあれは宿主であるジャックそのものを食らいつくす気だ!」
そんなのあぶない。こうなったら、もうたよりになるのはアチラモノを切り裂く妖刀持ちしかないんだけど……
「松風は研ぎ師にあずけてる」
そう、いま坂上さんは刀をチュウゴロウにあずけている。手が出せない!どうしよう!
そんなぼくのおたつく表情を見て、サムライガールは
「……しかたないな。やるだけやってみるか」
そう言ってふところから出したのは、忍者がつかう、とがったスコップみたいな武器だ。
(クナイっていうんだって、後で坂上さんに聞いた)
そんなものを持ち歩いているなんて、きみはサムライなだけでなくクノイチ・ガールだったのか!
「護身用だから、たいしたことできないけどね……」
そう言いながらも、流れるようなステップで近づくと、ジャックを狙うネチョネチョの気をそらすように誘いをかける。
アオグロネチョネチョがうるさげに肢をふるうと、坂上さんは器用にクナイで受けとめるけど
「うっ!」
たえきれずはじきとばされる。
「だいじょうぶ!?」
ぼくがあわててかけよると、少女はくやしそうに
「……だめね。やはり松風じゃないと受けきれない」
さすがの少女も妖刀がなければアチラモノの相手はできないようだ。
じゃまもののいなくなったネチョネチョがジャックを食べようと口を開ける。




