アチラの研究者と逃げた小鬼9
「……ウーン、ウーン」
ジャックはあいかわらずうなされているようで、寝ながら体をこきざみにゆらす。
そして、モゴモゴなにか寝言を言っていたかと思うと
「あいつが……あいつが、追いかけてくる!」
目を見開いた小鬼はにわかにさけぶと、はねおき、
なんと窓をつきやぶって外へ飛び出した!
(ちっちゃいくせになんて硬い体だ!……っていうか、なんてチャチな窓ガラスだ!)
これにはベティーさん、そしてさすがの坂上さんも面食らった。
「あらまっ!弁償しないと!」
「今はそんなことより、追いかけないと!」
まるで熱にうかされた病人の異常行動だ。
前の小学校でも、インフルエンザにかかった子が部屋を飛び出してケガをしたことがあった。
そんなふうに何かにぶつかったり、落ちたりでもしたら大変だ。(相手が)
ぼくらはあわてて追いかけた。
坂上さんとベティーさんはわれた窓のすき間からそのまま追いかけたけど、ふつうのこどものぼくにマンションの2階からとびおりるなんてできない。ジェームスといっしょにエントランスの方からまわった。
あたりを見わたすと、ベティーさんと坂上さんのすがたも見えない。
もうだいぶん遠くまで行ったみたいだ。
「どうしようか……」
ぼくがだれともなくつぶやくと、肩にのってたジェームスがしっぽで首筋をなでた。そして飛び上がる。
まるで、ついてこいって言ってるみたいだ。こういうときのジェームスにはしたがった方がいい。
ぼくはすなおにハネツキギンイロトカゲについていった。
――そしたら、ほんとにジャックがいた。
にげたゴブリンは、マンションうらの公園のしげみ前にぽつんとひとり、つっ立っていた。
あんなにすごい勢いで飛び出したのに、じっとしてどうしたんだろう?
よく見ると、こきざみにふるえてる。まるで恐怖で体が動かないみたいだ。
「どうしたの?」と声をかけようとしたら、いつのまにかうしろにあらわれた坂上さんに制止された。
ベティーさんもいる。
「――だめ。気をつけて」
その表情に緊張がある。
この、ぼくの知ってるなかでは最強の少女が言うんだから、なにかあるんだろうけど、いったいなにが……とぼくも緊張してると、ジャックのうつろな視線の先、しげみの奥からガサゴソと音を立ててあらわれ出たのは……




