アチラの研究者と逃げた小鬼6
いま彼女がつかっている部屋はけっして広くなく、家具もベッドとちっちゃなテーブルしかない。
ベティーさんは、意識モウロウとしているジャックをその一つしかないベッドに寝かせてくれた。
――でも、まさかこんな形でジャックに再会するなんて。
ペンキ職人のドワーフ・ブロッケン親方のところにつとめていたジャックが、新入りの後輩エルフ・エアーノスをそそのかしその身にドクロの刺青を入れたあと、親方にバレるのをおそれて逃げ出したのは、先月のことだ。
もうかむのにはいないと思っていたのに……しかも、こんなぼろぼろの状態で会うなんて思いもしなかった。
ジャックはすごく弱っていたけど、それはうえかわいていたのもあるようだ。
ベティーさんがペットボトル入りのジュースをさしだすと、それをごくごくと飲みくだし
「……ああ、ひさしぶりに水以外のものを口にした」
うめきながら横になおった。
赤いくしゃくしゃ髪のなかにちょろっと見えるツノもそのままだ。
(そういや、このところやたらにツノづいてるな。白髪鬼にツノウサギにジャック……みんなちょっとづつ生え方がちがうけど)
最初に会った時はふっくらとしていたほほも、今はすっかりこけて人相が変わってしまっている。
いったい、この短いあいだになにがあったのだろう?
ジャックはうめくように
「のんのん先生に助けてもらおうと思ったんだ……まさか、いないだなんて想像してなかった」
「たすけてもらう」ってどういうこと?
ジャックは、もともとイギリスからかむのに集団移住してきたゴブリンのひとりだ。
彼らの多くは、かむの駅の北にある中古タイヤ置き場にコミュニティをつくって住んでいる。
ジャックは素行が悪かったとかで、そのコミュニティにいれなくなったのをブロッケン親方が受け入れた、とのんのん先生が言っていた。
だから、かむのをはなれて一体どうやって暮らしているのだろうと、先生も気にかけていたのだ。
そのことをジャックに聞いてみると
「……まあ、なんやかんやとして息をつないでいたさ」
どうやら、そのあたりのことはくわしく言いたくなさそうだった。
ぼやかすところを見ると、ぼくらには言えないうしろ暗いことをして生きのびていたのかもしれない。
まあ、なんだろうと生きていたからいいんだけど。
のんのん先生が言ってた。
「――わたしは医者ですから、そのものが生きているってことに一番の価値を置くんです。どんな形でも生きていれば、まあよし……という考え方です。そもそもアチラモノに、どの生き方がいいとかわるいとか言っても、しかたないですからね」
ジャックがもどってきたと知ったら、よろこぶだろう。




