アチラのお医者さんと刀とぎ12
老鼠は皮肉を言うと、つづけて
「あの鬼は、村雨をうばいにきたんじゃ。わしらを閉じこめたうえで、家探しをしてあの刀を持ち去る気だった。どうも、あの顔かくしは最初、村雨をあの白髪鬼のところに持って行ったようじゃな。
しかし、あやつごとき職人にはとても任せられぬと判断して、わしのところに持ってきた」
そうか。それでさっき、あの鬼は「おまえもか!?」ってさけんだのか。
闇丑光ふたふりに拒否されたんだ。
「あやつもいちおう研ぎ師ではあるが、腕はからっきしじゃ。そのくせプライドだけは高いから、刀にそっぽを向かれたのが我慢ならんかったのじゃろう。こっそりあとをつけて村雨をうばおうとしたのじゃ。まったく刀研ぎの風上に置けぬやつじゃ!」
怒りを持って言ったチュウゴロウに、
坂上さんは
「それで!村雨はどこに?あずかったんでしょ?」
いきおいこんで問うた。
しかし、老鼠研ぎ師は首をふると
「――いや、わしはあの刀を研ぐのをことわった」
しずかに言った。
「なんで!?あなたも闇丑光は研げないの?」
……坂上さん。気がせいているからって、そんな言い方しちゃいけないよ。
ほら、ネズミだってカチンと来ちゃう。
「わしに研げぬ刀などない!どんな妖刀であってもだ!……ただ、あの『村雨』という刀はまずかった。あの刀は、むやみにものを斬りすぎておる」
たしかに村雨は、鵺郎博士の指示のもとフェイク・ヨウコ(坂上さんのクローンというかコピーみたいなやつ)によって、多くのアチラモノを切りつけた。
「あの刀は、もうすっかり血の味をおぼえてしまっておる。ただただアチラモノを切るためだけに存在しとる刀じゃ」
切るためだけって……もともと刀って、そういうものじゃないの?
「ちがう。刀とは、あくまでわが身を守るためのもの。ぬかずにすめば、それが一番じゃ。しかし、あの村雨という刀は、他者を切ることによろこびを感じてしまっておる。……あれは、もはや持ち主の身を守るための刀ではない」
悲しいことじゃ、とチュウゴロウは首をふると
「わしは、村雨を持ってきたものに『この刀にこもった毒気邪気も、すべて研ぎ落とす』と言った。そしたらば、あやつ、それはこまると言いおった。『それでは、この刀のうらみを晴らしてやれなくなる。この刀との約定をたがえることになる』と言ってな」
「うらみ?」
「ああ。そのときはわからんかったが、今この刀を見てわかった。……おじょうちゃん、あの刀とやりあったな?」
刀を見るだけで、そんなことまでわかるのか。すごいね、刀研ぎ。




