アチラのお医者さんと光るトカゲ13
次の日、コーポまぼろしに行ったらまだ診療所は散らかっていて、片づけちゅうだったけど、ヨシノさんはお茶を出してくれた。
「――ハネツキギンイロトカゲというのは前にも言ったとおり、月の光さえ浴びていれば栄養は確保できるので、本来ものを食べる必要はないんです。われわれの感覚だと、ふつうそうすると胃腸は退化するか少なくとも縮小すると思うんですけど、なぜだか、彼らのそれは逆に異常に発達してしまってね。ほとんど一種の異空間と化してしまっているようなんです。正確な調査はいまだなされていませんが、一説には、その奥の広さは地球の一個や二個ぐらいすっぽり入るぐらいとまで言われています。
そこにあのタヌキとオニは目をつけたわけですね。いくら三トンの紫水晶といってもジェームス君なら一飲みですし、しかも彼自身はポケットに入る大きさですから、だれもあやしまない。見事な作戦でした。
しかし、そのあとは間の抜けた話です。ジェームス君に紫水晶を飲ませてアリの巣の外へ持ち出すまでは良かったが、それを取り出すこと、つまり宝石を吐き出させることがうまくできなかったんです。彼らは無理やりに宝石を取ろうとして、あろうことかジェームス君を傷つけたんです」
なんてひどいことを!
「まあ、それでジェームス君は怒って逃げ出したんですね。ウシオニの話だと、オオシロタヌキは手負いのジェームス君がたよるとしたらこの診療所だろうと思って、わざわざハクオウじいさんに化けてこの診療所に偵察に来たんです。彼は、じいさんが長年のわたしの患者だと知っていたんですね。
あの老人は話好きで誰とでも話をしますし、年のせいで多少、記憶があやしくなってきていますから、あとでつじつまが合わなくなってもあやしまれにくい。
そしてシロタヌキはあなたがジェームス君を連れてきたことを知った。彼は慎重にことを進める気だったようですが、なにせウシオニというのは短気で考えが浅いからね。まあタヌキを出しぬいて自分一人でうまくやろうという気もあったんでしょう。
彼には黙って次の日の朝、わたしを脅しに来たんです。そしてそれがうまくいかないとなるとあなたを誘拐してどうにかしようとした。しかしそれも失敗し、今度はちゃんと二人で考えて、わたしの留守を狙ってジェームス君を強奪しに来たのです」
先生はそこまで語るとお茶をひとすすりした。
ジェームスとぼくが出会ったうらがわでそんなややこしいことがあっただなんて、びっくりだ。
「きみも大変な目にあったんだねぇ」
思わず頭をなでるとジェームスはこころよしげに眼を細めた。
「シロタヌキが言っていた『あのかた』ってだれでしょう?」
「さて。ウシオニに聞いても知らないと言っていましたね。たしかにシロタヌキが考えたにしては今回の盗みの手口は凝っています。うらでなにかアドバイスをした存在がいるかもしれませんね。まあ、そのあたりは今ジェームス君のおなかの中にいるシロタヌキに聞いてみないとわかりませんが」
のんのん先生はぼくにおなかをなでられて心地よげにしているジェームスを、ほほえましげに見て
「――いや、しかしあのシロタヌキは化けるのが上手でしたね。わたしにもまるでわかりませんでしたよ」
――えっ?
「そんな!ホクロの位置がおかしいって言ってたじゃないですか!」
ぼくは思わず声を上げた。
「ああ、あれは『はったり』です。ハクオウじいさんがそんな悪さをするわけがないと知ってましたから、わかっているふりをすれば相手の方がボロを出すだろうと思ってあんなことを言ったんです」
お茶をすすりながらしらっと答えるのんのん先生に、ぼくはまいってしまった。
「先生はなんでシロタヌキに襲われそうな時でものんびりした顔をしていたんですか?こわくなかったの?」
「こわかったですよ。でもなんとかなるだろうとは思ってました」
「どうして?」
「わたしはあなたに代金はいらないといったでしょう。それには理由があるんです。わたしはこの診療所でアチラモノの治療をしても直接お金をもらうことはありません。しかしその代わりに彼らはわたしにツキをくれます」
「ツキ?」
「つまり幸運とでも言いましょうか。わたしが診察のあと競馬に行ったり、宝くじを買いに行ったりすると『だいたい』当たるので、そのお金でわたしは生活をしています。ここのところそんなツキをたいして使わずとっておいたんで、なんとかなるだろうとは最初から思ってました。……まあ、ジェームス君のすがたを見たとき、ぱっとひらめいたからよかったですよ」
ハッハとわらうのんのん先生に、ぼくはそれならそうと初めから言っておいてよ、と文句を言いたくなった。シロタヌキに追われてすごくこわかったんだから。
「あのふたりはどうなるの?警察に引きわたすんですか?」
「シロタヌキたちですか?いえ、アチラにそういう組織はないんですよ。各々(おのおの)がみんな、その場その場を適当にやっていく。ルールというものがあってないような世界です。
これはとてもむずかしいことです。決まった法律のない世界では、どこに正義を求めるかということでみんな悩みます」
急にムズカシイ顔をするので、ぼくがキョトンとなると
「いや、これはよけいなことを言いました。気にしないでください」




