アチラのお医者さんと刀とぎ7
進んだせまい路地の奥には、和風の格子戸の玄関があった。
どうも、チャイムもインタホンもないらしい。
人づきあいになれてない坂上さんにさせるわけにもいかないので、ぼくはせいいっぱい見栄を張って、大声でおとないをつげた。
「ごめんください!だれかいませんか!?」
かなり大きな声を出したつもりだったけど、返事がない。
坂上さんがだまってこっちを見るから、しかたなくそのあともくりかえして何回か大声をあげていると
「――やかましい!何度もさけばずともわかっとる!」
いかめしい声とともにあらわれたのは、作務衣すがたの「鬼」だった。
そう、オニだ。そこそこ年齢がいっているのか白い総髪で、前にぼくがふれあった?のは、二本ヅノタイプの鬼だったけど、こんどは一本ヅノだ。
前の鬼にはひどい目にあった。ヨシノさんが来てくれなかったら、かじられてたところだ。
今度の鬼は、のんのん先生の知り合いで研ぎ師なんだから危なくないだろう。
ただ、先生の言うとおり、この鬼はかなりヘンクツというか気が荒そうに見える。
血走ったような目で、鼻息荒く
「……おまえらコチラモノだな。こんなところになんの用だ?」
「あの……刀を研いでもらいたいと思いまして、のんのん先生の紹介できました」
おずおずと紹介状をさし出すと
「うん?……ああ、研ぎの依頼か?」
手紙をひったくるようにうばい読むと、坂上さんのほうをジロッと見て
「ふん。闇丑光か……よし、入れ」
そうやって、奥のちょっとした畳敷きの和室に入ると、なぜだか置いてあるミニチュアのちっちゃい座布団を蹴飛ばし、自分だけ普通サイズの座布団にどっかとすわって、えらそうに
「――どら。刀を見せてみろ」
と、ふんぞり返るように言う。
坂上さんはきびしい表情で鬼をにらみつけていたが、松風をきれいにするにはしかたないと思ったのだろう、宙から松風を取り出した。(なんべん見てもすごい。四次元ポケットみたいだ)
そして刀を横ざまに取りなおして、ポケットから出した布(袱紗っていうらしい)を刀身にそえて鬼にわたそうとしたが、その刀を取ろうとする鬼のごわごわと毛深い腕、そして顔を見ると動きを止めた。
「……どうした?おれの顔がそんなにおそろしいか?おじょうちゃん」
あざわらう鬼に対して
少女は
「――いえ。ただ松風が、あなたの手にわたるのをいやがっている」
そのことばを聞いたとたん
「――よこせ!!」
おそろしくも口をいがめた鬼がぶっとい腕をのばして松風をひったくろうとしたが、
そのときにはもう!
少女は立てひざになって、刀を横ざまにぬきはらい終えていた。




