アチラのお医者さんと刀とぎ6
フードものが商店街の人の流れにまぎれ去った(通りすがった人も風体にびっくりしている)あと、坂上さんにささやいた。
「今のって……」
「ええ、アチラモノではなさそうね。でも、ふつうじゃない。サカイモノじゃないかしら?」
「サカイモノ……」
ぼくや坂上さんみたいにアチラモノとかかわることができる人間は、ほんとうはとてもめずらしいはずなのに、なんだかよく出くわすな。
「坂上さん、あの人に眼とばされてなかった?」
ぼくがたずねると
「……あれは、品定めされたという感じね」
とことんクールなサムライガールは、平然と答える。
「しなさだめ?」
「ええ。あたしに武術のたしなみがあるのが分かったうえで、軽く殺気を飛ばして、いかほどの腕前か見定めようとしてきた」
えっ、そんなことしてたの?だいじょうぶなの、それ?
「――まあ、あたしだって同じようなことをしてたから、おたがいさまというとこね」
そのとき、ほんのちょっとだけ坂上さんの口のはしが上がった。
楽しんでいるのだ……わかんないね、そういう武芸者の沈黙のコミュニケーションは。
「ふうん……それで、どうだったの?あの人の腕前って?」
「……かなり、やるわね。ただ、純粋な武芸者ではなさそう。むしろ暗器つかいじゃないかしら?」
「あんき?……ものおぼえがいいの?」
ちがってた。暗器つかいとは、服の下とかいろんなところに特殊な武器をかくしもった者のことらしい。
「そうね。たとえばナイフなら、ラペルとかスペツナズとか……」
なんて言われても、わかんない。
こういうときの坂上さんの表情は、ただの凄腕剣士のそれになるからとてもきびしい。
根っからのサムライ気質だからな。
つい、つづけて「坂上さんと、どっちが強いの?」って聞きそうになっちゃったけど、とちゅうでやめた。その前に、なにを言いそうかピンと来た同級生に、おそろしい表情でにらまれたからだ。武芸者に聞くには、あまりにデリカシーのない発言だったんだろう。
ただその表情から、あのフードものが、坂上さんとイイ線行くぐらいの強者らしいことはわかった。
ぼくなんかは、特に関わらないように気をつけよう。




