アチラのお医者さんと五行の精霊12
「わたしは、彼らにふつうの人間のフリをして暮らすことをすすめました。火の精は車の修理工場の溶接工・火乃さん、そして木と土の精はこのかむのの植物園の職員・木土さんとして、ひっそり生きていくように言ったのです。――そのとき、ハクオウじいさんにはこの植物園の園長に話をつけていただきました」
「まあ、木と土の精といえばわしにもゆかりがふかいものじゃからな。園長の枕元にちょっと立って、ふきこんだだけじゃわい」
そんな神様のお告げみたいなことしたの?よくそれで就職できたな。
「ハンターに気どられないよう、彼らにはたがいの接触もさけさせました。ウチの診療所にも近づかないように言っておいたのです。そこまでさせたのに……」
力無げにことばをのみこんだ。
「……しかたあるまいよ。もともとが無理のある結合処置じゃったからな。木と土の相剋に媒体の粘菌がたえられなくなったのよ」
「じゃあ、その菌をかえれば……」
ハクオウじいさんのことばに思わずぼくは口をはさんだが、
じいさんは首をふって
「いや、無理じゃな。もともと弱りきった二つの精を強引に結びつけたことによるひずみが、処置しようのないところにまで来ておる。……残念じゃが、たしかに最後は友の火によって燃やしつくされることが、一番よいことなのかもしれん」
それって、あきらめるってことだよね。それでいいの?
となりを見ると、のんのん先生が歯噛みをしていた。どうしてやることもできないのだ。
それは、アチラモノのお医者さんとしてつらいことにちがいなかった。
ただ見守ることしかできないなか、大きなキノコはまるでキャンプファイヤーのようにはげしく燃えさかる……って、
あれ?
「……先生、あそこにうかんでいるのはなんですか?」
燃えさかる菌のまわりになにやらうすぼんやりとした、あえかな二つの光が近づいてきた。白と黒……。
先生も眼鏡をあわすと
「……ああ!あれは『金』と『水』の精です!消滅した五行の精が、まだわずかにのこっていたんですね!」
その白と黒の光の玉が、まるではげますかのように、燃えさかる菌のまわりをぐるぐると回りだした。




