アチラのお医者さんと五行の精霊9
ハクオウじいさんがステッキの先を力強く一つ地面に打ちつけると、周囲の緑という緑が、まるで動物のように体をうねらせ、木土さんから逃げるように引いていった。
「……先生、こりゃいかん。わしの力ではせいぜいあれぐらいしかみどりたちを避難させられん。あんな『木』でも『土』でもない不自然なまがいものをほっておいたら、この植物園だけじゃない、かむのの植生がゆがんでしまうぞ!」
「……わかっています。やむをえませんね」
先生はポケットから、前にムラガリチスイコウモリをしばりつけたテープをとりだすと、どんどん大きくなる木土さんになげつけた。
テープはまるで生きものかのように、もこもこをしめつける。
「「――なんで『おれたち』をしばる?先生。おれたち今とっても調子がいいんだぜ。今までにない感じでまざりあって、元気になってきたっていうのにさ」」
木土さんがはなつ、かさなりあった声に
先生は
「……それは気のせいです。『あなたがた』は、今とても不安定で危険な状態におちいってるんですよ」
「「そんなことないだろ?『これ』が先生の考えてたことじゃないか。先生が、おれたちをこんなふうにしてくれたんだぜ」」
そのことばに、ぼくはびっくりしてのんのん先生の方を見ると、先生はただ悲しそうな顔をして木土さん……もしくは木土さんだったものを見つめた。
そして
「――そうです。それが、このような事態になってしまいました。とてももうしわけなく思っています」
しぼり出すように言った。
「「なんにもわるくないよ、先生。あんたは、いつだっておれたちの味方をしてくれたじゃないか?あのはんちゃにおわれちゃときじぇもへへへへえへへ」」
もうさいごはまともなことばにならず、すっかりかたちのくずれた木土さんは、さらにふくれあがる。
そのいきおいをさすがの先生の封縛テープも完全におさえることができないらしい。
増殖しつづける菌は巨体をひきずるように移動を始めた。
その先にあるのは、噴水のある池だ。
「まずい!池に入られては!あのテープは水にはそこまで強くない!」
「水の中でひろがられてはおおごとだぞ!菌がひろまってしまう!」
先生とじいさんはあわてるが、どうすることもできず見守るしかない。
「――ああっ!」
今にも菌がのばした触手が水辺にかからんとしたそのとき、菌と水のあいだに立ち上がったのは、燃えさかる「火」の壁だ!
その壁の先に立っているのは、ぼくに瓶をわたした人……火乃さんだ!
「……やっぱり、おかしくなってたか。遠くから感じていても、こないだからどうも妙な気配だったんだ」
ガテン系のお兄さんは、悲しげな口調で言った。




