アチラのお医者さんと五行の精霊2
その植物園の関係者入り口そばにいた人は、まちがいなくコチラのものだった。
ツナギを着た職人みたいな男の人だけど、地面にはいつくばって、なにか見ている。
それだけなら、ただの変わった人でいいけど、よろしくないのは手元にちょっとした炎が見えることだった……そう、火だ。
さっき見た案内板によると、この公園では火をつかうことは一切禁止されていて、バーベキューとか花火もしちゃいけないことになっている。
だから、その人はやっちゃまずいことをしてるんだ。
かといって、ぼくはもちろんその人に注意しようだなんて思ってないよ。そんなことして万が一キレられたりしたら、こわいもの。
前は、そんな見て見ぬふりなんて、いけないことだと思ってたんだけど、いまはちがう。
最近はアチラモノとの遭遇が多いけど、いざいろんなことに出くわしたとき、いったいどうしたらよいかわからないことが多い。だから、のんのん先生にそういうときどうしたらいいか聞いたんだ。
そしたら、言われた。
「――極力『知らんぷり』しなさい。危険なことに自ら近づくのはおバカさんのすることです」
「でも……それって、臆病なんじゃないですか?」
ぼくのことばに、
先生は
「『臆病』で、なにがわるいんですか?勇気があるからいいなんて、むかしのウソですよ。危険からわが身を守ることのほうが大事です。とくに、あなたのようなサカイモノは気をつけないといけません」
いつにないきびしい口調で言われた。そして、さらに
「それはコチラの世界のことでもいっしょですよ」
と付けたした。
「えっ?コチラのことでもですか?」
って、聞いたら
「『特に』コチラこそです。アチラとちがって、コチラ……いまの人間社会にはちゃんと法律や社会常識があって、それを守るためはたらく人がいます。あぶないことは、そういうプロにまかしとけばいいんです。
いまどきコドモが妙な正義感を出したりしてはいけませんよ。知らんぷりはいいことです。せいぜい余裕があったら、たしかなオトナに報告するぐらいにしときなさい。……それ以上、首をつっこんではぜったいにダメです」
と、念押しされてた。
だから、ぼくは先生に言われたとおり、なにも見なかったことにしてその場を通りすぎることにしたんだ。
ジェームスといっしょにだまってツ――ッと、はいつくばってる人のはたを自転車で通りすぎようとしたら
「――おい、少年」
ゲッ!
よびとめられた。
やばい、立ちこぎして逃げなきゃダメかなと思ったら……
「――おまえ、のんのん先生の助手だな?」
「えっ?」




