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あやしの診療所―のんのん先生とぼく―  作者: みどりりゅう


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アチラのお医者さんと光るトカゲ11

「先生、今の人はカラスなんですか?」

 高架下から診療所に戻る途中、歩きながらぼくは聞いてみた。


「うーん、そうといえばそうですが、ちがうといえばちがいますね」

 先生は首をかしげながら言った。

「正しくは、カラスの中にまぎれて暮らしている存在とでもいうべきでしょうか。

わたしたちはふつう『カラス女』と呼んでいますが、アチラの中でも特に人間とまじりあって暮らしているタイプのモノですね。この町の情報については、アチラのことでもコチラのことでも一番よく知っています。

 まだいくつかわからないことはありますが、今回の件も、彼女のおかげで大体こういうことじゃないかという見当がつきました。あのトカゲ……」


「ジェームスです」

「そう、ジェームス君。彼をきちんと()なおさないといけませんね」

 なにがなんだかぼくにはわからないけど、先生はもうすっかり自信があるみたいだ。


「……さっきのアリの宝石泥棒の話と、ジェームスがなにか関係あるんですか?」

「ええ。あると思いますよ」

 あんなちっちゃなトカゲと大きな宝石のあいだにどんな関係があるのか、ぼくには見当もつかない。


挿絵(By みてみん)

「……それに先生、さっきぼくのことを助手って言ってましたけど」

「ああ、すいません。とっさにうまく言うことができませんでね、あんな言い方になりました。迷惑でしたかね?」

「いや、いいんです」

 メイワクどころか実はさっきそれを聞いて、ぼくはのんのん先生の助手になれたらどんなにいいだろうと思ったんだ。だってそれってすごくおもしろそうだもの。でもさすがに

「本当に助手にしてくれますか?」

とは、あつかましすぎる気がして言えなかった。


「そうそう、藤川さん」

 先生は立ちどまってぼくの顔を見た。

「なんですか?」

 先生はちょっと言いにくそうにしたあと

「……あの、いまクロハさんのところに行ったことはヨシノさんにはだまっててもらえますか?」

「えっ、なんでです?」


「いやあ、その……実はあのふたりは前からそりが合わなくてね。彼女のところにあなたのような少年を連れて行ったことが知られると、わたしがヨシノさんに怒られると思うんですよ」

 ひどく弱気な顔だった。だから

「……はい、じゃあ別に聞かれないかぎり言いません」

 とぼくが言うと

「そうですか。助かります。ありがとう」

 ホッとした顔をした。


 たぶん、本当はぼくを連れて行ったことが問題じゃなくて、先生がクロハさんに会いに行ったこと自体をヨシノさんに知られたくなかったんだと思うけど、ぼくはもちろんそのことを深くセンサクしたりはしなかった。

オトナの事情には深入りしない方がいいと思ったんだ。

それが助手のたしなみってものでしょ。


 ぼくらはたがいに愛想わらいをうかべながら診療所にもどった。


 コーポまぼろしに着くと、先生が立ちどまった。

「変だな。あんなところにウチのサンダルが飛んでる」


 おかしく思って中に入ると、待合室のイスがたおれクッションも飛んでいる。

あわてて診察室にかけこむと、そこはもっと悲惨で、書類も薬品の瓶もぐっちゃぐちゃに散らかっていた。

そして机とイスのあいだで、ヨシノさんの胴体だけが、後ろ手をしばられた状態で足をじたばたさせている。


「ヨシノさん!?上は?アタマはいったいどこですか?」

「せんせぇ~。ここですぅ~」

挿絵(By みてみん)

 植木鉢でフタされた棚を開けると、首だけのヨシノさんが飛び出してきた。

髪をとどろに乱した表情がものすごい。

「せっ、先生、もうしわけありません。不意を突かれて。トカゲを連れていかれてしまいました」

 ジェームスが!


 あわてるぼくに対して、のんのん先生は意外に冷静にヨシノさんの胴体をだきおこすと

「それよりケガはありませんか?……ふむ。この診療所を襲うとは、彼らもよっぽどせっぱつまってきたようですね。ここはいわばアチラとコチラの緩衝地帯のはずなんですが……」

「先生!そんなことよりジェームスはどうなっちゃうんでしょう?」

「ふむ……。ちょっと待ってなさい」


 先生は散乱している棚の中身からなにかを拾い上げた。かたちのかわった懐中電灯みたいだ。

「なんですか、それ?」

「簡易型の人工月光灯です。きのうジェームス君の寝床に敷いておいた氷月石の粉にこの光を当てると、きらきら光るんですよ。その成分が残っていればいいが……」

 先生は床にその月光灯の光を当て探った。


「しめた!犯人は粉を踏みしめていったらしいぞ。足跡が残っている」

 ほんとうだ!光を当てるとうっすらと靴の形が見える。

「追いかけましょう!」


 ぼくらはさっそく追跡を開始した。

「ヨシノさん、休んでいてはどうですか?」

先生が声をかけたが

「いえ、やられっぱなしではすまされません。目にものを見せてやります!」

 その鼻息はとても荒い。先生もそんなヨシノさんの剣幕についてくるのはダメだとはと

ても言えそうじゃなかった。

どうやら、いざというとき、この診療所で決定権をもつのはのんのん先生ではないらしい。


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