アチラのお医者さんと妖刀つかい22
「鵺郎博士は、あたしに対する教育が熱心だった。裏家の世話役に話をして、あたしに魔道者としてのたしなみをつけさせようとした。あたしは魔道のセンスがなかったけど、刀術には向いていた」
「おそろしい技量です。新闇流をマスターしているこどもがいるとはおどろきです」
先生の感嘆のことばにも、
坂上さんはそっけなく
「しかし、そんな教育もすべては自分の野望『人工のサカイモノ』をつくるための準備にすぎなかった。博士はすぐれた材料が欲しかっただけなの」
しずんだ表情で
「彼にはじめて細胞と幽体をとられたときは……不快だった」
「いやな体験でしたろうね」
先生は重々しげな表情でうなずいてるけど、ぼくにはその「不快」の想像はつかない。
でも、つっこんで聞かないほうがいいんだろうとは思った。
坂上さんは怖気をふるうように体をのばすと
「だから、あたしは博士から逃げることにした」
いかにも意志が強い子らしく言った。
「世話役のすすめもあって、かむのの呪宝寺に身をよせることにした。それで、ひとまず博士からのがれることができたのはよかったけど……」
少女はそこでことばを切ると、言いにくそうに
「怪心尼さまはよくしてくれたけど、いっしょに住むのはちょっと息がつまる」
「……そうですか。尼寺のくらしですから慣れるのはたいへんでしょうね」
(のんのん先生は、このとき適当な相槌を打っていたけど、あとで聞くと
「実際むずかしいでしょうね。僧侶と小学生といっても女性同士……それに、どちらもなかなか強い気性のものが二人っきりで住むのですから……」
と推測していた。本人には言わないところが、ニクいや)
「あたしは、博士の材料になるのもイヤだけど、尼さんになるのもイヤ」
そのしかめ顔に、はじめてぼくはこの女の子に人間らしいものを感じた。




