アチラのお医者さんと妖刀つかい20
次の日の夕方、ジェームスとぼくはコーポまぼろしに行った。
もちろん昨日のてんまつを聞くためだ。昨日は混乱の後始末がたいへんで何も聞くことができなかった。
診療室に入ると、先客がいた。
坂上さんだ。
……フェイクじゃないリアルのほう……だよね?
「――藤川くん、どうも。今回は迷惑をかけてごめんなさい」
こちらが部屋に入るなり、立ちあがって頭を下げる同級生にぼくはあわてた。
今日、学校ですれちがったときも、なにもやりとりなく無視されたのに、急にていねいに頭を下げられてもとまどってしまう。なにせ、こないだその同じ口で脅迫されたばかりなのだ。
信用はかんたんにできないんだよね。ほら、ジェームスも警戒してぼくの首のうしろにかくれる。
のんのん先生は
「まあ、かたいことはぬきで……どうですか、ホウイチくん。先ほどまで怪心尼がいらしてね。おわびにと『みまつ屋』の落雁をもってきてくれたんです。わたしより、ひどい目に会ったあなたのほうがいただくべきでしょう。
あの店も、今じゃすっかり苺のケーキの方が有名になりましたけど、もともとは和菓子屋でね。今でも先代が古いごひいき用に、こういう干菓子もつくってるんです」
苺のケーキのほうがいいけどな。そう思いながらもぼくは、ヨシノさんが入れてくれたにがーいお茶で落雁をいただいた。
粉っぽくてのどがつまりそうだけど、上品な甘さと香ばしさがおいしい。
「……ケガはなかった?」
同級生の問いに
「だいじょうぶ。坂上さんこそだいじょうぶ?」
「問題ない。ニセモノなんか相手にならない」
負けん気がすごいな。ニセモノとはいえ、自分とまったくおんなじ顔をした人間 (のかたちをしたもの)を切るなんて「ゲド戦記」で自分の影とたたかうのよりすごい。
ぼくはお茶をすすりながら先生、坂上さんどちらということもなくたずねた。
「あの、あぶない博士はどうなったんですか?」
こたえたのは先生だ。
「怪心尼が実家……禍王家に手配して、厳重な拘束のもと送りとどけたそうです。本家の牢に閉じこめるそうです」
「あんな、怪獣みたいなのに変身できる人を閉じこめておけるんですか?」
ぼくの疑問に、
今度は坂上さんがこたえた。
「問題ないと思う。禍王の本家……表家にある鏡内洞には、ついこないだまで鵺郎博士よりずっと強力な人が閉じこめられていたから」
よくわからないけど、じゃあだいじょうぶかな?
それより、家の中に牢がある家って……。




