アチラのお医者さんと妖刀つかい19
のんのん先生が坂上さんに
「……おじょうさん、それは他のものにまかせては?」
声をかけるが、
少女は自分のフェイク(にせもの)をにらんだまま首をふって
「『これ』を切れるのはあたしだけです。アチラモノではぎゃくにあぶない」
「しかし……」
「いいんです。これのもとはあたしなんだから。あたしが自分でけりをつけます。それに……」
フェイクをキッとにらむと
「ムカつくのよ、あんた。あたしとおんなじすがたでこんなところにまでついて、刀をふりまわして……おかげで、せっかくできた同級生にまで『切りつけ魔』のあぶないやつだと思われたじゃない」
――あれ?その同級生って、ぼくのことだよね。……ヤバい。あぶない子だと思ってたのがばれてた。
「ニセモノのくせに腹の立つ。あんたなんか……ぶった切ってやる」
こわ――い。
先生もぼくも、なにも言えなくなった。
松風と村雨、ともに闇丑光作の二振りの妖刀が、まったく同じ顔かたちの少女の掌のうちに共鳴する。
そのひびきあう音のなか、先んじて動いたのはフェイクの方だった。
間合いを一気につめると、縦様に刀をふり下ろす。
あぶない!
と思った、しかしそのときには、リアル・ヨウコ……坂上さんは横に体をうつしていた。
力を入れて動いたというより、ぎゃくに力がぬけて、ただ横に体が落ちたみたいなそっけなさだ。
そして松風は、すでに横なぎの一閃をフェイクの脇腹にくわえ終えていた。
「……なんだ、あれ?オレでもよけ切る自信がねえぞ。とんでもねえガキだな。本物とやりあわなくてよかったぜ」
ハインリッヒがあきれるようにぼやいた。
「ええ、すごいものですね。あのニセモノは、彼女と向き合うのにたえきれず動かざるを得なくなったんですよ。さそいこまれましたね」
先生がうなずく。
フェイク……ニセモノは切られたところからぽろぽろとくずれて消えていく。
その光景はけっこうグロいけど、坂上さんは表情を変えることもなく、ながめていた。
すごい女の子だ。ぜったいにさからうのはやめよう。
どうやら奥の怪獣同士のたたかいも決着がついたようだった。
鵺の体に蛟が巻きついて、しめあげている。
虎みたいな腕をタップさせてるから、ギブアップってことなんだろう。
「――やれやれ、たいへんでしたね」
登場はハデだったけど、実際の戦いには何も参加しなかったのんのん先生はぼくの横で、ふむふむともっともらしくうなずいていた。
ぼくの首にジェームスが巻きついてくる。
「さて、かえりましょう」




