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アチラのお医者さんと光るトカゲ1

2024.10.21〜

話の新規更新とは別に

いったんUPした挿絵の描き直し・追加作業を前の方から少しずつおこなっています。

絵の変化もお楽しみいただけるとさいわいです。


 ぼくは今からアチラのお医者さん……のんのん先生の話をしようと思うんだけど、そのためにはまずジェームスのことを話さなきゃならない。

なんたって、ぼくをのんのん先生のところに連れて行ってくれたのはジェームスなんだから。


 ぼくの名前は藤川芳一(ふじかわほういち)といって、この春休みがおわったら、かむの小学校の四年生になる。といっても、つい一週間前にお母さんと二人でこの「かむの市」に引っ越してきたばかりだから、まだ一度も学校に行ってない。


 新学期までまだ一週間あった。昼間、お母さんは働きに出ているし、まだぼくにはこの町に知りあいがいないので、退屈だ。ぼくは、しかたないんで町の中をひとりでうろちょろ探検していた。それで今日は、昨日のうちに地図で見つけておいた市の図書館に自転車で行くことにしたんだ。

 

図書館は大きな池のある公園のなかにあった。

 ぼくは司書のおねえさんに言って図書カードをつくってもらうと、ビデオの試聴コーナーで「グレムリン」っていう古い映画を見た。そのあと本棚を見てまわって「ナルニア国物語」というのを一冊借りて帰ることにした。


 外に出ると、もう時間は夕方で、あんまりおそくなって暗くなるといやだからぼくはあわてて自転車にのった。そして、行き道で来たときと反対むきに公園をぐるりっとまわって帰ろうとしたんだけど、まわってるうちにどこから出たらいいかわからなくなって、ぐるぐると池のまわりを何周もまわることになっちゃった。


 行きの時に順路は覚えたつもりだったのに、帰りになるとそれが逆になって景色が変わって見えて、なにがなんだかわからなくなっていたんだ。ぼくはすっかり心細くなって自転車をおりた。まわりを見渡しても、人はだれもいなかった。こんな見ず知らずの町で迷子になるなんて!

 ぼくはゼツボウ的な気持ちになった。はずかしいけど通りがかりの人に聞きながら帰ろう、そうしないと一生家にたどり着かない。ぼくは泣きそうになりながら人を探そうとした。


 

 ……そのとき、ぼくはなにか鈴が鳴っているような、チロチロとした音を聞いた気がしたんだ。はっきりどうこうって訳じゃない。ただ、そのほのかな音がまるで人を呼んでいるように思えた。見まわすと、ある茂みの中だけ妙にぽおっと光っていた。


 本当はそんな得体のしれないものに安易に近づいちゃいけないのかもしれないけど、ぼくは訳もなくその光に引き寄せられた。そして、おそるおそるその茂みをかきわけてのぞいてみると、そこにはちいさなトカゲがいた。

挿絵(By みてみん)

 それも、ただのトカゲじゃない。ふしぎなことにその子は雪明りみたいにやわらかい光をはなっていて、しかもトンボのようなすきとおった(ハネ)をもっていた。かわいそうにケガをしているらしくて、水銀みたいなてらてらとした血を流してうずくまっている。

 ぼくが近づくと、彼は閉じた目をうっすら開けてこちらを見た(気がした)。


 ぼくはいつもは、虫とかハ虫類は苦手でよくさわられないのだけどそのときはなんでだろう?ちっともコワイとか思わず自然に手をのばした。トカゲもぼくが手のひらで抱きかかえても、ちっとも抵抗しなかった。彼を手で包むと不思議な感触で、表面はひやりとしてるけど、その芯にあたたかい炎があるのがよくわかるんだ。


 この子がジェームスだった。


 もちろんジェームスって名前はこの後にぼくがつけた名前だよ。この時は、ただのわけのわからない不思議な光るトカゲだった。

 でも,いったいどうしたらいい?今からウチに連れて帰ってもお母さんはイキモノが嫌いだから中に入れることすら許してくれないだろう。どこか動物のお医者さんのところに連れて行ったらいいんだろうけど、どこにそんな人がいるのかぼくにはわからない。そうだ。第一、いまはぼくが迷子になっているんだった。


 ぼくがこまっていると、トカゲはシッポを持ち上げて、なんとそこからあえかな青白い(ほのお)を出した。しかもそれがなんと矢印の形になっているんだ。

「えっ、なにこれ?もしかして、この方向に連れていけってこと?」

 炎が○の形になった。


 ぼくはおそるおそるトカゲを前かごにのせると自転車を走らせた。曲りかどに来るとちゃんと炎の形がかわって、どっちに行くか指し示すんだ。ぼくは、ただただそのとおりに懸命にペダルを漕いだ。

そのとき不思議だったのは、道ですれちがう人々が、こんなかわったトカゲを見ても誰もおどろかないことだった。赤信号で待っていた時でも、隣に立っているおばさんはぼくの顔をちらっと見ることはあっても、前かごに目をやったりしないんだ。

まるでそこにそんなトカゲなんていない、何もありはしないってみたいにさ。


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