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俺をバ美肉させないで  作者: 天才川 スプリーム太郎
9/41

9 女の子の服、着て行きます

 休日の部室に登校し、朝一番に一曲踊りおえた俺を見て、エコは「完璧にはほど遠い」と感想を口にした。

 だが自分で手本を見せたり細かい部分を指摘したりはせず、家でもっと回数をこなせと言った。

 受けとっておきましょう。


 土曜の今日は時間がかかって慎重さの要る作業をすることになっていた。

 普通のガラスを曇りガラスにするスプレーで、ビニールシートの透明度を落とすのだ。

 薄いと効果がないし、やりすぎると本当に曇りガラスになってなにも見えなくなる。


「四万だぞ、四万。もう一回買えは勘弁しろよ」

「わかってるから。だからこれ」


 俺は家から持ちだした食品用のラップを床に敷き、さまざまな高さからスプレーしてみた。

 乾かして透け具合をたしかめる。

 結果、立ったまま腕を水平に伸ばして、一秒で腕を振りきるくらいの密度がちょうどいいとわかった。

 曇ってはいるが内部を光らせると透けて、しかし光の乱反射で確実に見通しは悪くなっている密度。

 あとはこれを百八十センチかける四メートルぶん、正確に均一にやるだけだ。

 二人してマスクのうえにゴーグルを追加する。

 俺が立ってスプレーをし、エコはしゃがんでシートを広げていくことにした。


「はー、しんど。こういう職人じゃねぇんだぞ、あたしら。機械化したいわー。職人の魂とかどうでもいいからマッシーンでやらせたいわー。職人の魂とかマジどうでもいい。みんなAIに仕事を奪われちまえばいい。抵抗ハヤメロ。あ、手についた。クソあーこれ落ちるんだろうな。爪が証言者Aみたいになってんじゃねぇか。でも結構おしゃれかも。模様とかにしたらエッチンググラスみたいで綺麗かも。ぱふぇ子もネイルアートネタでもやるかー。男受け悪そうなことも定期的にやらないとリアルさがなー。そんくらいのCGなら自分で作れるし。ってか、まだこんだけしかやれてねぇのかよ。日が暮れるぞ。日が暮れるってよく言うけどなんの基準にもならんよないまどき。野良作業の人間なんてそういないし。朝飯前もよくわからん。それはおまえの匙加減やないかってなもんで。そこ、端までかかってないな。ちょっと足して、ちょっとだけだぞ。よし」


 べつに工作中に独り言を言うのは悪くない。俺もよくやる。

 適度にリラックスできるし考えを客観視できるし。

 問題は、誰かが独り言を言っている空間では、ほかの人間は独り言を言えないという点にある。会話になってしまうから。

 そして会話にまでなると集中力に悪影響を及ぼす。

 二時間ほどかけてすべてがおわったとき、無言の集中力を維持したぶん、俺のほうが倍は疲れていたと思う。


 近所のスーパーで買いこんできた昼食を詰めこみ、ちょっと休憩したあと、曇らせたビニールを丸め、合わさった切れ目をテープで閉じ、上下をグルーで固定する。

 出来栄えをたしかめるため部屋を暗くしてなかに入り、LEDを点ける。


「ははっ。あたしだ。あたしに見える。でもやっぱり人間がなかにいるようにしか見えねーな」

「だから言っただろ」


 失望したとたん、俺はビニールからすぐに出たくなった。


「うーん、後ろが透けてるから駄目なんだな。背景の半円だけ白くして、そこに光を当ててみよう」


 エコは部室のレースカーテンを引っぺがすと、二つに折ってビニールの円筒に貼りつけた。


「おー、一気にインチキくさくなった。奥も光ってるけど手前のビニールも濁って光ってるから、ガチでホログラムみたいに白い背景からわざとらしく浮いてる感がする。ちょっと手ぇ広げてデフォルトポーズみたいにして。これはいける。勝ったわマジで」


 俺も確認するためエコをなかに入らせる。

 筒全体が淡く光るのと同時に人物は上下から強く照らされ、白い背景のなか、足場の透明な板が見えているいまでさえエコが宙に浮いているように見える。

 近距離で見るから視点が動いてもまったくズレない自然すぎる不自然さもあるが、距離を取れば背景と中身と手前の濁りの重なりも、ホログラムにしては細かすぎる対応角度も誤魔化せるかもしれない。


「体育館の舞台の奥側に置けば、バレない、かもしれない」


 たしかに俺のなかにも、ちょっとした確信が芽生えはじめていた。


「あの会長が負けを認めるツラを見るのが楽しみだな。なぁ?」


 エコが輝く笑顔を向けてきた。


「おまえなんでVチューバーなんかやってんの?」

「はぁ?」

「おまえが顔出してユーチューバーやればよかったじゃん」

「シャイなんだよ」


 円筒から出てきて姿をたもてない実験生物の真似をひとしきりやったあと、エコは「そろそろ行くか」と言った。


「まだ早くないか? やることいくらでもあるのに」

「今日はこれから衣装を買いに行くことになってるから」


 ホウレンソウって言うじゃん?

 よく知らんけどホウレンソウってなんか大人が。

 それが足りねーよ。


「衣装なんて要るか?」

「ジャージで踊るわけにもいかないだろ」

「おまえの制服とか。ぱふぇ子が着てるのも改造制服みたいなもんだろ」

「なんであんたにあたしの制服着せなきゃならないんだよ。一目見てそうだとわからせるためにも、ぱふぇ子の衣装は絶対要るから」


 エコに連れられるまま、俺は電車に乗り四駅ほど都心に進んだ。


「この駅にコスプレショップなんかあったっけ」


 駅周りはそれなりに栄えているが、住宅街の印象のほうが強い。

 いまいる商業施設もたいしてしゃれた店などない。

 オタクが集まる店なんてあっただろうか。


「さぁ? とにかくこれに着替えろよ」

「なにこれ?」

「あたしの服」

「さっきと言ってること違、いいや。それよりなんでだよ」

「いいから。トイレそこね」


 俺は多目的トイレに押しこめられる。

 入っていたのはジーンズとカットソー、だいたいぱふぇ子と同じ長さのロングのウィッグ、そしてシンプルながらも明るい色合いのブラジャーだった。

 さすがにこれは新品だな。生地の手触りとかでわかる。


「おいこれ。この……下着。なんでこんなもんまで」

「まっ平らでいけるかよ。女装なんだから」

「パッドも入れるのか。こんなに分厚いの要る? おまえもこういうの……」

「なに想像した。いま頭のなかで考えたこと頭のなかで訂正しとけ」


 した。


「ぱふぇ子はそんくらいあるからだよ。本番でもつけるんだから練習だと思ってしとけ」


 言われても、手をつける気にはなれなかった。


「ヤだよ。女装なんて」


 だれかの顔を思い出して、口のなかが粘っこくなる。


「なにが嫌なんだ」

「だってほら、この駅にも、クラスのやつとか住んでるかもしれないし。そいつに見られたら」

「あんたそれが怖くてマスクしてんだろ」


 いっこうに着替える気配がないのを扉の反対側から察したのだろう、エコはあやすような声をさせる。


「じゃあこう考えろ。いまからここにいるのはあんたじゃなくて、どっかのべつの女だ。それを着ているあいだあんたは小豆畑ライカじゃなくて、別人になる。だれか知り合いに声かけられてもなんだこいつって顔して素通りする。現実一回切ればいいんだよ」

「そんなふうに……」

「着てみりゃわかるよ。自分なんてあいまいなもんなんだから」


 着替えはじめる。

 言いくるめられたわけではなく、反証したくなったから。

 着替えたくらいで自分を別人となんか思えないと言い切って、エコの主張と、エコがネットでやっていることを否定したくなったから。

 ブラジャーはつけかたがわからなかったのでスマホで調べた。

 下着メーカーによる初めてのブラジャー講座だってよ。そんな誰でもいつかは体験するみたいに言われてもね。


 すべてを身につけ鏡のまえに立つ。

 地味な格好した花粉症の女にしか見えなかった。

 どんな女かなと観察してしまい、髪とマスクのあいだに自分を見つけ、急に恥ずかしくなってもとの服に戻りたくなる。

 マスクを顔に押しつけ逃げるようにトイレから出る。


「どうだ?」


 言われて、うなずいてしまった。

 

「でなに? 男子禁制のオタクショップでも行くの?」


 そんなものあるのか知らないが。

 しかしエコは駅の中心からどんどん離れ、住宅街に歩いていく。


「コスプレショップにもぱふぇ子の衣装は売ってるけどな、安っぽすぎて駄目だ。あれじゃ顔とのギャップで一発でバレる。このさきに界隈じゃ名の知れた天衣無法松ってコスプレの裁縫師が住んでんだが。問題があってな」


 エコはわざとらしく腕を組んだ。


「そいつは客に会って似合ってると認めないと売らないんだと。そいつから衣装を買うためにはそいつの家に行って試着して、ちょーっと撮影会みたいなことしないといけないらしい」

「は? 撮影会? そいつの家で、二人きりで? それってなにかの隠語か?」

「いいじゃん。もしそうでも、あんたならスカートめくって見せればいいだけじゃん。残念でしたーボク男でーすって」

「それ駄目なパターンだろ。男もいけるやつだったらどうすんだよ」

「わかったわかった。三十分経って出てこなかったら踏みこんでやるから」


 機能してるの見たことない作戦。

 俺たちはしばらく歩いて大通り沿いのマンションまえで立ちどまる。

 タイル地の壁面が日当たりに切りとられた、どこにでもある建築だ。

 ここがその裁縫師の家兼作業場らしい。


「今日行くってはなしはしてあるから。なにさっきからポケットぽんぽん叩いてんだよ。ビスケットでも増やしてんのか?」

「いや、ここにお金を入れたってたしかめてて」


 渡された封筒にいくら入っているかは見ていない。

 見たら金額相応の責任が生まれる気がして。


「触ればいいだろ」

「触るためにポケット広げたらそこから出ていく気がするだろ」

「しねーよ。じゃ、あたしはそこのファミレスにいるから」


 通りの反対側を指差す。

 制服が入った俺の鞄と自分の鞄、二つを抱えて行ってしまう。

 俺は空の紙袋を手に敷地に踏みいった。

 エントランスで、用もないのに教えられた部屋の郵便受けを眺める。

 表札はない。

 無意味にウロウロしてからオートロックの番号を押す。

 出るなよ、出るなよ、と思っていたのに出る。


「はい」


 くぐもった声が網目から聞こえる。そのうえのレンズに向かい俺は応える。


「連絡していたぱふぇ子の衣、装を買いたいものですけど」


 言葉の真ん中あたりで自動ドアは開いていた。

 俺はエレベーターに乗るときいつも、閉じこめられたら怖いなぁと思って乗っているが、いまは逆の気分だ。

 階に吐きだされて廊下を進む。

 突き当たりの部屋まで行きつき、呼び鈴を鳴らす。

 すぐ、ドアの奥に気配を感じた。

 しかしドアはなかなか開かない。

 覗き穴からこちらを吟味している、そんな数秒だった。


 不穏な間があったにも関わらず、ドアの開いたわずかな隙間に、俺はもう安堵していた。

 漏れる調光、壁紙、傘立てに刺さる色合いで、一つの事実を確信していた。


「どうも、入って」


 ヘアバンドを取ると長い髪が眼鏡に垂れる。

 ニットの腕まくりを直しながら、その女の人は俺を招きいれた。


 スリッパで上がりこみながら、俺は幸運に感謝していた。

 いや、もしかしたら最初から、エコのヤツにからかわれたのかもしれない。

 担がれたのかも。

 いくらオタクのオフ界隈が乱れているといっても、衣装ひとつでそんな、ねぇ?


「ぱふぇ子のコスだったねー」


 天衣はキッチンの脇を通り作業場を先導していく。

 どこかで見たような衣装を着たマネキンが幾人か。

 それにドールっていうのか、バチっとした目で関節がある人形も座っていた。


「たまにそういうのの服も作ってるんだよねー。我が子のように扱って、金に糸目をつけない客が多いんでー」


 言いながら、衣装かけからハンガーを持ちあげる。

 俺にももうお馴染みの、改造制服風の衣装が吊られていた。


「私も同じってことかな。初めから商売目的のはべつとして、本当にこだわって作ったものは自分の子のように思えてくる。似合わないやつには絶対に売りたくない。そこはお金の問題じゃないんだねー」


 衣装の背中を俺に向けてかざし、眼鏡の奥から値踏みしてくる。

 視線がチクチクとマスクに集中する。


「じゃあそっちの部屋で着替えて。私が似合ってると思ったら売る。そうでないなら売らない。その服も、いままで何人か欲しいって言ってきたんだけどねー。残念ながら残ってる。私がかなりのぱふぇ子ファンだってのもあるかな。妥協はしないから、覚悟しといて」


 ハンガーを手渡され奥の部屋に通される。

 寝室らしく、明るい色のベッドとクローゼットが並んでいた。

 女の部屋って意識は追いだそう。

 ハンガーをクローゼットの表にかけ、エコの私服を脱ぎはじめる。

 隠しカメラとかないだろうな。

 俺のボクサーブリーフとか見ても嬉しくないだろうけど。


 スカートのホックに手間取りながらも着替えおえる。

 衣装をすべて身につけても、ハンガーのベルトかネクタイかをかけるフックに小さな袋が残っていた。

 なかを見ると、ぱふぇ子がいつもつけている髪飾りが入っていた。

 盛りあがった白いクリームの尖ったさきから伸びた糸とチョコの網掛けが立体的に交差しウェハースに橋をかけている。

 ほかのVチューバーに比べて現実的なデザインの衣装のなかで唯一突飛なアクセサリー。

 適当にウィッグに刺し、近くの姿見に映してみる。


 大げさな物言いだと思ったが、天衣の仕事は言うほどのものがあった。

 俺に着られた衣装が、自然に見える。

 それが凄い。

 なかったものをあって当然に見せるほどの技術。

 それから思いきってマスクを外した。


 大丈夫だ、どこから見てもぱふぇ子にしか見えない。

 誰も俺だとは思わない。

 俺じゃない。

 いまここにいるのはぱふぇ子だ。


 着てきた服を紙袋に詰め、扉を開ける。


「着替えました」


 天衣は座っていた椅子を回し、向きなおる。顔に浮かべていた侮りがみるみる消えていく。


「嘘でしょ」


 完全に立ちあがりもしないまま、よたよたとこちらに歩み寄ってきた。


「まるで、本物みたいじゃない」


 本物みたいって、じゃあ俺はなんなんだ。


「いいってことですね。じゃあお金」

「待ってまって、ちょっと写真を」


 ああ、撮影は本当にやるのね。ゴツいカメラだな。


「信じらんない。似てるなんてもんじゃない。視線ちょーだい。笑って。はいはい、いーね。ちょっと場所変えようか。そうそう。うわー、たまんないわ。なんか降臨って感じ。バ美肉、じゃなくて逆? 現美肉? こんなことってあるんだ」


 言われるがままにさきほどの寝室に戻り、ポーズを取ったりベッドに座ったりする。

 これネットに流したりしないだろうな。

 フラッシュ眩しいし、笑ってるの疲れるし、だんだん鼻息荒くなってて怖いし、さっさとおわらないかな。


「じゃあちょっと襟開いて胸元見せて。スカートもちょっと肌蹴る感じで」

「え、あの、そういうのはちょっと」

「ちょっとだけ。ちょっとだけだから。んもー、わかっててきたんでしょ。こういうこともあるって」


 あ、やっぱりそういうことなの。

 こういうってどこまで? 脱ぐ時点で無理だけど。

 これ以上めくったら男物の下着見えちゃうし。


「いやほんとに。そういうの困るんで」

「お姉さんはね、かわいい女の子にかわいい格好をさせるのも好きだけど、そこから脱がせるのはもっと好きなの! ね! ね! いーじゃない女同士なんだし。じゃあ私も脱ぐから! こういうこと初めてならお姉さんがリードしてあげるから!」


 カメラを持ってないほうの手でニットをまくり上げる。

 ブラジャー見えた。

 ってこれ以上はさすがにまずい。

 立ちあがってスカートの裾を握る。

 やるしかない。


「あっ、あの!」

「なに? 観念した?」


 作法は知ってるけど、いざやるとなると相当恥ずかしいぞこれ。


「ぼ、僕、男なんで!」


 スカートをたくし上げるのと同時に口にする。

 天衣は持っていたカメラを落とす。

 首からさげた紐が重みに揺れた。

 よかったね。高そうなの落とさないで。


「お、男、の子」


 子はつけないで欲しい。漢字を間違えると困ったことになる。


「こんなかわいいのに、男の子って。ほんとにいるんだ。二次性徴前とかじゃなくて」

「てことなんで、もういいですよね」


 今日はもう疲れた。帰りたい。

 まだ見えてる気がしてスカートを直す。

 ぶつぶつ言ってないで部屋に一人にしてくれないと着替えられないんだけど。

 それだって俺の服にじゃないし。


「私、男の人と付きあったことないの。なんだか怖くて」


 そりゃ意外。悪くないのに。

 てことは男ともそういう欲はあるってことか? てか何歳くらいだ? 中高生なら一学年単位でなんとなくわかるんだけど、ちょっと大人になると全然わからん。一人暮らしっぽいし成人はしてるよね。というかなんの話?


「なんとなく、いつか怖がらなくていい男の人が現れて、それが初めての相手になるって、思ってた」


 眼鏡の奥、うるんだ目が色っぽい。

 裸以外で色っぽいなんて思ったのは初めてかもしれない。


「君が、そうなのかも」


 いやいやいや! 無理無理無理無理! 重い重い重い!


「僕じゃありません!」


 紙袋を忘れるな。引っ掴んで逃げろ。

 スリッパ脱いで靴履いてドア開けて。

 忘れもの、は無いな。なにも置いてきていない。

 違う、置いてない。


「お金、ここに入れますから!」


 紙袋のなかのジーンズから封筒を引っぱりだし、ドアのポストに捻じこむ。

 捻じこむ扉がガチャリと開いた。


「逃げなくてもいいじゃない~」


 隙間から髪が垂れ、手がにゅっと伸びてくる。

 声にならない悲鳴をあげて、ウィッグが飛ばないように押さえエレベーターホールまで。

 それからスカートがまくれるのも構わず階段を駆けおりる。

 閉じこめられたら怖いから。




「いらっしゃいま……お一人様で……」


 驚いてるのは俺の格好にか、それとも形相にか?

 ぜぇぜぇ肩で息をするぱふぇ子の格好をしたマスク女が突然来店し固まる店員を横目に、勝手にファミレス内に入る。

 エコがどこに座っているかは外から見えていた。

 ガッツリなんか食ってんじゃねぇよそこはドリンクバーとかにしとけ。


 スマホから上げた顔の真んまえに紙袋を置く。

 ステーキだかハンバーグだか知らねぇけど鉄板のものを食うなよ三十分経ったら踏みこむ作戦に差し障るだろ。

 エコは自分の私服の入った紙袋を席の横に下ろすと、かわりに手のひらサイズの箱をテーブルに置いた。


『つらい痔の痛みに 塗っても注入しても使える 第2類医薬……』


 パン、と払った箱が窓ガラスに当たり、床に落ちた。

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