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俺をバ美肉させないで  作者: 天才川 スプリーム太郎
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8 修行回

 俺は踊りをする人間ではない。

 盆踊りだって参加したことはないし将来大学生になってクラブとかで体をくねらせるなんてのも考えられない。


「おまえ酷いな」


 初めてぱふぇ子の曲にあわせて踊ってみた木曜日、エコが感想をくれる。


「褒めて伸ばせよ。そういう時代だろ」

「あたしはそれより、現代的科学的メソッド的理論的筋肉教的練習法でいきたいね」


 エコはスマホで流していた自身の曲の再生速度を半分にし、ゆっくりと一パートずつ振りつけを手ほどきしてくれた。向かいあって鏡合わせの状態で真似ていく。


「キック、キック、ステップステップ、息を飛ばしてくるっとターン」

「こんなに腕上げたらうえにぶつかっちゃうよ。幅も手を伸ばすには狭いしさ」

「じゃあそこはアレンジで、こう、肘を使う感じで。幅は手を伸ばすほうと逆に動けばなんとかなるだろ」


 もともと激しい踊りではないが、より小さく、しかし優雅さは失わない振りつけへとエコはその場でアレンジしていく。

 一通り教わってからもう一度挑戦してみる。

 動きっぱなしだったこともあって、おわったときには心臓が暴れまわってゲロを吐きそうだった。


「どうだった?」


 前かがみになって息を整えようとする俺に歩みより、エコはそっと胸によりかかってきた。

 なんだこいつ。


「なんだよ。よくできましたのハグか?」


 横を向いた頭から髪が流れ、俺の胸に広がっている。

 全然ドキリとしないね。きわめて冷静だ、俺は。


「あまりにテンポが悪いから心臓でナミック星でも爆発してるのかと思って」

「脈拍があんな引きのばされたら死んでるよ」


 小さいころネット配信でコンプリートしようとしたら気絶しかけたからな。


「あとな、もっとぱふぇ子になりきれよ。ぱふぇ子はあたしたちと同じ高校一年生。自分をかわいいとは思っているけどそれに驕ることなくちょっと怖がりででも目立ちたいって気持ちもあって、ファンの反応はうれしいけどセクハラコメントは本当に恥ずかしくって、そんなぱふぇ子が勇気を出して振りつけも自分で考えて踊ってるんだ。もっと思いきれないおしとやかさみたいなもんを出せ。あと家はマンションだからしたに響かないようにステップしろ」


 最後のはおまえの情報だろ。




 二日間ぶっとおしで練習したが、エコの顔がほころぶことはなかった。

 淡々とお手本を見せ、直すべき点を指摘し、繰りかえさせる。

 金曜の下校時刻、俺は思うように動かない自分の身体に苛立ちながら着替える。

 さきに制服に戻り、扉のそとで待っているエコに向け声を張る。


「これ、無理かもしれねぇな。やっぱり」


 返事はない。


「おまえの言うとおり、俺ってセンスないのかも。そういやむかしから音ゲーも苦手だったなあ」


 壁の掲示板に押しピンで縁取られた木片を眺める。

 半月に三日月が重なったかたち、マスクド・タスクを、捨てるのも惜しいので貼っておいたのだ。

 俺に牙なんてあるんだろうか。


 着替えおわり、鞄を持って扉を開ける。

 エコは扉のよこで壁に背をあずけ、足を交差させていた。


「あたしは諦めないし、あんたにも休ませない」


 こちらを見ずに歩きだす。


「どうすりゃいいかはあんたが考えろ。下手うって困るのはあんたなんだから」


 黙ったまま駅までいっしょに歩き、買い食いもせずに改札で別れた。

 家に帰り、一気に空腹を満たすと一気に眠気が襲ってくる。

 このまま眠りたい、でも眠ったらもう朝までなにもできないだろう。

 でも今日くらいいいかな。

 俺も毎日頑張ってるし、今日金曜だし。金曜かぁ。もう一週目が過ぎたってことか。


 最後は義務感が勝った。

 スマホを起こし動画サイトに繋げる。ぱふぇ子の動画がトップに表示される。

 最近ずっとあいつの曲を聴いているせいだ。

 アップロード日は、一時間前。


 俺は「俺の顔のアイコン」を押し、チャンネルを眺める。

 二日に一本のペースで動画が投稿されていた。

 ゲームをやったり流行に乗ったり誰かとコラボしたり。

 なにかで見たVチューバーの撮影風景を思いだす。

 表情を撮影する機械を担いで、身体にもセンサーをつけて動いて喋って、その周りには音響だの撮影だの大勢の裏方がいて……。

 あいつは一人でやっていると言っていた。

 二日に一本。


 俺はディスコードを開いて、エコにテキストを送った。


「明日も学校行くんだろ。何時にする」


 そして音量を聞こえる最低にして、部屋の真ん中にスペースを作り、あいつの歌を流しながら動く。

 休憩を挟みながら三周ほどループしたとき通知音がした。


「平日と同じ」


 練習を再開する。

 マンションのしたの階に響かないよう気をつけながら。

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