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俺をバ美肉させないで  作者: 天才川 スプリーム太郎
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二 登録外すわ

「それではインタビューです! 見事、チームオブサモナーズ初のチャンピオンとなりました、詩碑ユウさんです!」

「はーいどもー! みんな、やったよー!」


 大スクリーンではいつもの笑顔が手を振っている。会場が歓声に包まれる。あの位置がエコが欲しがっていたものか。配信を独り占め、ネットニュースの記事にもなる。たしかに大した実益だ。


「ずいぶんeスポーツ的展開に力を入れたゲームだったんだね」


 近藤がとなりで呟く。


「流行るかどうかは、しらないけどな」


 人数が多すぎるしリーダーと隊員は不公平だし、実際当たるとは思えなかった。今日が盛り上がったのは配信者たちの力が大きい。


「さいごはちょっと、対戦相手が変則的なことをしてきましたが?」

「さすが、あちらのチームの方々は自由ですねー。ちょっとうらやましいなー、なんて」


 そういや俺はこいつの中身を知ってるんだな。だからといって、いまの言葉が本心かどうか判別できるってもんでもないが。

 優勝チームのリーダーたちがつぎつぎにインタビューをおえ、司会は画面に向かってトロフィーを渡すふりをする。


「つづきまして、参加いただいたファンのみなさまのなかから、もっとも輝いていたかたに特別賞を授与したいと思います!」


 これがあるから俺たちは観客席に引き止められていた。そして俺は内心、かなり期待していた。もちろん純粋にゲーム内で活躍したのは、プロゲーマーのだれかだろう。だが俺は大会の不正を暴かぬままゲームを公平に戻し、イベントを成立させた立役者と言える。そのことは主催者が一番よく知っているはずで、その感謝を示すならここしかなかった。


「それでは発表いたします。プレイヤー特別賞は、チーム、インディオールスターズ、珠稀ぱーふぇく子隊の……」


 さて、立ち上がるか。


「プレイヤーネーム、コンさんです! どうぞ前までおこしください!」

「わたし?」


 俺は傾けた重心を使って戸惑う近藤の背を押す。


「コンさんはゲームは苦手そうでしたが、ずっと楽しくチームを盛り上げてくれました! こういう方がいると、ゲームが楽しくなりますよね! これからこのゲームに参加するみなさんも、ほがらかで和気あいあいとした雰囲気でプレイしていただきたいと願っています!」


 壇上に拍手で迎えられ、近藤はぺこりと頭を下げる。


「そのゲームを盛り上げ、チームを引っ張ってくれたコンさんには、特別賞としてチームオブサモナーズ特別仕様のプレスチ5がプレゼントされまーす! ちょっと重いけど、気をつけて持って帰ってくださーい!」


 大きな紙袋を手渡される。背後のスクリーンにゲームのロゴが貼られたプレスチ本体が表示される。


「あいつだけ得してんな」


 いつの間にかとなりにエコが立っていた。


「もういいのか?」

「あぁ。敗者は暇なもんよ」


 紙袋を両手で浮かしながらこちらに戻ってくる近藤を視線で追う。


「どうしよ。なんか貰っちゃった」


 立ち上がって迎える俺と、そのとなりとを見て、はたと止まる。


「あ、中野、さん」


 最初、近藤がなにに戸惑っているのか分からなかった。だがじっとエコを見るその目で、やっと気付かされる。エコは素顔を近藤が持つ紙袋に近づけ、中身を吟味した。


「へえ、良かったじゃん」

「うん、ぱふぇ子のサインとか入ってたら、もっと良かったんだけど」

「高く売れる?」

「そうじゃなくて!」


 笑い合う二人の横を、五人組が通っていく。


「じゃあねー二人とも」


 ルゥチが手を振り、久住先輩や吉瀬や鶴子二人も笑顔や会釈や目配せを置いていく。


「知り合い?」

「友達」


 近藤の言葉にエコはそう答え、自身も出口に向かおうとする。


「さて、ここまで配信をご覧のみなさん、会場にお越しのみなさんは、とても気になっていることがあると思います。それで、このゲームはいつ発売するんだ、自分たちはいつこの顔認識機能を使ったゲームをプレイできるんだと」

「値段はいくらなんだと」

「そうそう。ではここで、その発表をしたいと思います」


 スクリーンが光ったかと思うと静まる。基本プレイ無料の文字と、ある日時だけを白く残して。


「こーれーはー? つーまーりー?」

「そう、明日! 零時! つまり今日の深夜、日付が変わった瞬間にアンロックされます!」


 会場がどよめく。


「は? 今日?」


 俺は開いた口も塞がらないまま立ち尽くす。エコが近藤を引っ張って、そそくさと歩いていく。


「俺のこれまでの苦労はなんだったんだよ!」


 十二時間程度の先行体験をおえた人の流れが、俺の周りを通り過ぎていった。




 電車に三人で並んで座る。自分らの住んでいる街に近づくまで、エコと近藤はずーっと喋っていた。今日のこと、明日のこと、月曜日のこと。学校のこと、部活のこと、放課後のこと。ネットのこと、テレビのこと、親のこと。


「本体も貰ったし、これからもあのゲームやる?」


 近藤が降りる駅に到着するまえに、エコが近藤の足のあいだにある紙袋を見る。


「そうだねー。結構楽しかったから、やりたいと思うけど」

「じゃあフレンド交換して一緒にやろうよ」

「うーん、でもさ、これってネットで対戦するのにお金かかるやつでしょ?」

「ああ、一ヶ月五百円くらいかな」

「ちょっと無理かなー」

「外せばいいじゃん、ぱふぇ子のサブスク。ちょうどいいじゃん」

「それは、ちょっと」


 近藤は言い訳がましく首をひねった。


「ネットの人間と友達と、どっちが大事なの」


 揺れる車両のなか、エコの瞳だけがまっすぐに近藤を刺していた。


「それもそうか」


 電車が制動をかける。窓を駅のホームが滑っていく。


「じゃね。中野、小豆畑」


 腰を上げてから荷物を引き上げると、開く扉に向かいながら手を振る。俺たちも揃って手を振って送りだした。

 扉が閉まって電車がまた動きだしても、俺たちは黙ったままだった。そのまま学校の最寄り駅、エコの住む駅に着く。


「ずいぶん手間がかかったな」


 ブレーキの音に重ね、俺はそう口にする。


「あんたも、今日はありがと」


 立ち上がる背が言った。そのまま顔を見せず降りていってしまう。

 あいつに礼を言われるなんて、初めてじゃないか。そんなことに気を取られているうちに、電車は駅を離れる。

 そして俺は、自分がまだあいつの服を着ていることに気づくのだった。

第二部 おわり

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