二 全滅
一回戦がそれぞれおわり、八チームが半分になったあと、わずかな休憩を挟んで二回戦が開始された。
その一戦目が俺たち個人勢とカミツミキの対戦。一回戦の戦いぶりを見て、実況はこれが実質決勝戦ではないかと謳っていた。
たしかにカミツミキの隊員たちはこちらと同じくゲームの腕で選抜されており、その動きもそつのないものに見えた。
「勝てるかなー」
吉瀬がすこし遠くで呟く。
「絶対勝つの!」
若干エコが混じったぱふぇ子が返す。試合が始まってしまえば、俺としても勝利を目指すのにやぶさかではないが。
試合が開始される。基本的には前回と同じ、ぱふぇ子とダスリーのチームが左のルート、ルゥチと鶴子が右、吉瀬ら怪人たちが中央を進んだ。
「なんで強いチームが左なの?」
近藤がカニ歩きでなんとかついてきながら訊く。
「シューターってのは、右利きでしょ。なかには設定できるのもあるけど。だから左に壁があるより右に壁があるほうが銃だけ壁から出せなくて不利なの。だから左のルート、右回りは強い人が受け持ったほうがいいってこと」
「そのとおり! くわしいっすね。そちらのかた」
俺の解説を、同行するプロゲーマーが褒める。嬉しいが、俺を女だと思ってのことだろうからなあ。
近藤がなんとかゲーム内でそっちを向いた。
「あれ? ほかのチームの声、聞こえてたっけ?」
「近くにいるとチームとか敵味方に関係なく聞こえますよー」
「それって、喧嘩になりそうですね」
「うーんまあ。たぶんホストの設定で切り替えられるんでしょう」
ルートの真ん中のコントロールポイントに向け、いったんチームを別れさせる。対称なマップで両チームが同じ時間に歩きだし、同じスピードで進むのだから、ゲームの火蓋はまずルート中央のポイントで切られる。ちょっと開けたポイントに侵入するのに、全員が同じルートから入るのは避けるべきだろうって判断だ。
六人で脇道を進み、ポイントがある広場が見えたときだった。
「いまだ! とつげきぃ〜!」
曲がり角から無邪気な声がしたと思ったら、明らかにこちらを上回る人数が顔を出し、一斉に銃を撃ちながらルートを塞ぐようになだれこんできた。
「立神ライオ!?」
カミツミキのライバーの名を思わず叫ぶ。
「ぼくもいるよ〜」
「じぇるっちまで! なんでこんなとこにいれるの!」
ぱふぇ子が下がりながらバフを配る。
「たぶん速度をあげるスキルを両方持って……」
言おうとした瞬間には俺は死んでいた。残りの面々も下がるか応戦するかの半端な対応のあいだに撃破される。リーダーのエコだけが、リーダーに与えられた追加の体力でなんとか逃げのびる。
ルートに割かれた人員のほぼ半数を落とした敵はコントロールポイント方向に取って返し、救援に駆けつけようとしていたダスリーの隊をも退ける。プロゲーマーらも隊員を数名失いながら自陣方向に引きかえしていく。さしものプロたちも倍の人間を相手にしては腕で埋められないようだ。
「やられましたね。ああいう電撃戦もあるんだ」
「なんか相手のリーダー、両方速そうだったもんね」
後ろのポイントで復活してエコと合流するまで、近藤と歩く。
立神ライオはどこかでライオンに育てられたとかいう設定の野生児で、ゲームは野生の勘でプレイするとうそぶいている。今回は中世の将って外見のクラスを選んでいた。
じぇるっちは天使。だがちょっと腹黒いことが有名で、こちらはそのまま羽を持ったクラスを選んでいた。ま、それしかないだろうって選択だ。
「でも相手にしてみたら結構賭けだったはず。俺たちが両方違うルートで固まってたら、あっさりポイントを取られて後退もできずにやられてたし」
ゲームの序盤で賭けに出る。上手くいったかどうかではなく、定石もまだないゲームに対して意図を持ってプレイしたことにまず感心しつつ、俺はぱふぇ子を見つける。
「ごめん、ぱふぇ子ちゃーん」
「大丈夫だから。ダスリーも下がってきてる。いったん体勢を整えましょう」
近藤の言葉にエコは冷静に対応し、一個下がったコントロールポイントでダスリーたちと合流する。
「アズサさん、あのふたりのクラス、なんだか知ってます?」
「ライオのクラスはウォリアーとか言ってたかな。ウルトは隊員全部の武器が剣になるけどアーマーついて移動スピードもものすごく上がって、とにかく突っこんでガンガン殴りにいくってかんじ。じぇるっちのウルトは、なんだったかな」
「きゃあっ!」
吉瀬の悲鳴に会話が切られる。
「こっちこっち! 真ん中にライオとじぇるっち来てる!」
「やばっ」
俺たちとダスリーの隊は中央のルートに向けマップを横に折れる。メインのルート同士を繋ぐ横道は、意図してだろうが狭く見通しが悪くなっていた。崖に挟まれた水のない渓谷のような道を進行する。
「怪人たちー、大丈夫?」
「なんとか下がって耐えてる。なんかいま攻撃がゆるくなったから」
「それって……」
俺が言いかけたときには、激しい火線が味方に降り注いでいた。
「ちょ」
手近な物陰に隠れる。崖の上両側から銃口がこちらを見下ろし、その銃を構える隊員たちのあいだに二つの影が立ち上がった。
「じゃじゃーん! またライオが食べちゃうぞ!」
「クソ! みんな逃げて!」
ぱふぇ子に言われるまでもなく、十二人は来た道を戻ろうとする。
「逃さないよー! ぼくはついに戦艦を手に入れたんだ!」
なに言ってんだコイツ、と思う間もなくじぇるっちの頭上にきらめく船が舞い降り、彼(性別はないらしいが)のチームが光の尾を引いてそれに吸いこまれた。船の底についた砲塔が揃ってこちらを向く。
「あれウルト? もう貯まってるの!」
「たぶんゲージを貯めるアイテムとかが……」
また死んだ。しかも今度はプロチームの面々も例外ではなかった。頭上から振る砲弾をかわそうとしているうちにライオらのチームに回りこまれ、二つのチームは全滅した。
「なんだあの戦艦は! いむばだろいむば! じぇるっちずウルトいずおーぴーおーぴーよ!」
エコが叫ぶ。こうしてついた有利を相手は見逃さず、さらに多くの隊をまとめあげると各ルートに出没。一人、また一人と味方のリーダーが落とされていく。
ほどなくこちらのチームのリーダーは全滅した。
ヘッドホンのなかもそとも、暗くて重い静寂に支配された。やがてギリギリと、歯を軋る音が耳を責めはじめる。ほかの人間にはなんの音だか見当つかないだろうが、世の中には本当に歯ぎしりってものをするヤツがいるんですよ。
俺たち隊員はリーダーが蘇る本拠地まで戻る。俺は無言の圧力に耐えながら、ぱふぇ子が復活するまでのカウントが進むのをじっと見ていた。
やがてカウントがゼロになり、ぱふぇ子がその場に姿を現す。
ゲームの顔認識ごしであっても、沈んだ面持ちは近寄りがたかった。黙って隊員たちのあいだをすり抜け、前線に向かおうとする。
「さあ行こうぜ行こうぜ!」
生身とゲーム内、二重の音声で近藤が叫んだ。
「みんな! 声出していこう! まだ試合始まったばっかだよ!」
ぱふぇ子はぼんやりと近藤を眺める。
「そうだよ。まだ全然諦める必要ない、こっからまくろうよ」
俺の言葉にやっと、エコはゲームのキャラクターに変換したことを考慮してもぎこちない笑顔を見せた。
「そうだね。頑張ろう」
やる気を取りもどしてみたものの、戦況はなかなか好転しなかった。一度ついた有利で優位な武器を使われているのもあるが、どうにも先手先手で動かれている気がする。
それでも近藤は声を張りつづけ、どんな小さなチームプレイ、どんな小さなアドバンテージにも明るいエールを送りつづけた。
「さすが野球部、慣れてるね」
俺の言葉に近藤は生身の首を巡らせた。
「わたし、ゲームは得意じゃないから、こんなことででも貢献しないと」
はにかんだ笑顔で首を傾げる。ぱふぇ子のキャラクターが壁につっかえ、後列との距離を縮めた。
「ベンチとか観客席からの応援って、すごく力になるんだ。自分が声を出すときも絶対、勝てるって信じながらやることが重要」
近藤の言葉の後半は、頭を素通りしていった。観客席から、力になる……。的確にこちらの行動を先取りした相手の位置取り。これがライブ配信されているイベントだという事実。
その発想は俺の脳内でこだまして消えなかった。
「ゴースティング」
俺の言葉に、隊員全員が立ち止まった。




