二 ツイッター、チャンネルのフォローのほう、よ
今日も学校についてからマスクを外す。
俺自身は折り合いをつけた。が、騒ぎになって周囲に迷惑をかけるだろうから、通学のあいだはまだマスク男子のままだ。
あと何度か痴漢にあったってのもある。男女さまざまな相手から。
「ぱふぇ子の生放送見た? 良かったよな〜」
近藤が今日もスマホを片手にいつもの話題を喋っている。
「うるせーな。見たよ。アーカイブで」
付きあわされる中田もかわいそうだ。
「面白かっただろ? 魚のとことか」
「正直な。でもクオリティは落ちるじゃん。生で動かすと」
後ろの席で気配が身じろぎした。もっとかわいそうなやつがいたか。
「集金手段を増やすためにやってんだろうけどな、生。スパチャとかでないとできないんだろ?」
「うーん」
言われて近藤は首をひねる。そのわざとらしさに、中田も気づいたようだ。
「おまえまさか、投げたんじゃねぇだろうな、金。貯めるって言ってただろ。ランドいくために」
「いやいや、そのー、メンバーシップのほうを……」
背後で椅子か机かがカタリと鳴った。
「馬鹿。いくらだ」
「月五百円」
「もったいな。横見ろ横」
中田と近藤がそろって俺を向く。
「すぐ隣にぱふぇ子がいるだろうが。こっちはタダだぞ」
「なに勝手に……」
「なんでもやってくれるぞ。笑顔でもウィンクでも。小豆畑、手ぇ出して」
差し出した俺の手に小銭を置く真似をする。
「チャリーン。ほら、投げキッスして」
「やだよ」
「熱中症ってゆっくり言え」
「声は関係ないじゃん」
うしろから茶々を入れるエコに、近藤が突っこむ。俺からちょっと視線を逃がすようにして。
俺の素顔を見せ、俺の父親がリアル系Vチューバーぱふぇ子のモデル製作者で、俺の顔を元に作ったから両者はそっくりだという事実を教えて、一大決心で近藤帆子と連絡先を交換をしたものの、そこから一文字のやりとりもしていない。
エコとなら適当にやりとりできるんだけどな。
「まだ照れてんの? 付きあうの、おまえら?」
「ばっ」
言いかけて近藤の口が止まる。どっち、それ。
「小豆畑もランド一緒に行く? 金貯まったらだけど」
「いいけど、俺も金、ないよ」
「何割か入ってこないの? ぱふぇ子から」
「こないね」
「そう考えると薄情だろ? こいつも。リアルの友達よりネットを取るんだから」
責められて近藤はまたもエコ相手に話題を逃がす。
「ねー、中野さんも行くなら行く?」
振り返ると、エコはマスクの顔に頬杖をついて俺たちを見ていた。
「考えとく」
そう言ってから、気だるげに前傾していき、また机に突っ伏した。