01 プロローグ
あ、私これ死んだ。
頭が割れるような、耳障りなブレーキ音と、甲高い悲鳴がつんざく中。
目の前が真っ暗になる直前、頭を過ぎったのはそんなマヌケな一言だった。
林 紗良。
26歳の極々有り触れたOL。
社会人歴4年に突入した、ブラック企業に勤める社畜。
………の、はずだった。
「それが天使に転職してるんだから、世の中わかんないもんだよねぇ」
目の前で繰り広げられる、中世ヨーロッパのようなドレスに身を包んだ、見目麗しい少年少女達によるドの付く修羅場。
それを端から眺める、同じようなドレスに身を包んだ私の言葉に、気付く人はいなかった。
──事は一ヶ月前に遡る。
「お前、死ぬ予定じゃなかったんだわ」
「…………は?」
清々しい青空に、広々とした広大な草原のど真ん中。
出勤用のスーツのままぺたりと座り込む私に突然告げられた一言は、なんともファンタジックなものだった。
男曰く。
私は朝の出勤中に電車の脱線事故に巻き込まれ、そのままご臨終となったらしい。うん、それは覚えてる。
だが、どうやら私はそこで死ぬ運命ではなかったというのだ。
そんな私が何故死んでしまったかというと──
「書類の処理ミスだな」
「書類の処理ミス」
「あの脱線事故で一度に何人もの人間が亡くなったし、巻き込まれたからなぁ。隣に立ってたオッサンとお前の死亡確定書類が間違って出されちまったらしいんだわ」
悪いな。
なんてサラッと言われた私はどうしたらいいんだろうね?
怒ればいいのかもしれないけど、生憎と現実味のない事が立て続けに起こったせいで、そんな余裕は持ち合わせてなかった。
「はぁ……」なんてマヌケな感嘆詞を出している間に、話はサクサクと進んでしまっていた。
「一度死んだ人間を、元の世界に戻すことは出来ない」
「え、じゃあ私、どうなるんです?」
「お前には……」
──別の世界で、天使になってもらう。
「……………………………はぁ??」
思わずとんでもない声が出たのは、ご愛嬌ということで。
見切り列車バンザイ
息抜き小説です、さーせん