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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第6章 その手は何の為に
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6-16 新たな光

「お~……やっと戻ってきたか。まぁちゃんと連れてきてるからいいか。」



アイラの身柄を渡そうかと作戦会議室を覗いたら、そこで寛いでいた管理者メロウに見つかった。


ふんぞり返ってコーヒーを飲んでいるけど、周囲の人々はそれを全く気にしている様子がない。一体何があったんだ……?



「あー……メロウ?様?先にアイラの方を……。」



ここでうやむやになって逃げられたりしたら最悪だから、先にアイラの処遇を決めておきたいんだが……管理者は俺の肩に手を置いて目を細めた。



「あたしが先だ。」



「……はい。」



肩に触れた手は冷たかった。


それにしても管理者にも大きな差があるんだな。人だから当然といえば当然なんだけど……何というか、厳しい試験を突破した真面目な人だけが、みたいなイメージもちょっとあった。


だけどダムレイ様は胡散臭いというか含みがあるというか、底を見せない感じがする。


ミノア様は考えていることは読めないけど、親切で公平なイメージがある。


で、この人は……チャラいというか横柄というか……ガキ大将感がある。


今のところ管理者の中で一番関わりたくないタイプかもしれない。



「まぁこのあたしがいる限り、悪さなんてさせないから安心しろ。で?水のEXコードを所持している……いや、ダムレイの野郎に持たされたってのが……。」



俺は密かに視線を送ると、ゆりりんはおずおずと前に出た。



「わ、私です。」



「そうか。あんたか……。」



管理者メロウはジロジロとゆりりんを色んな角度から見つめる。


ゆりりんは観察されるように見られることに嫌悪感があるのか、落ち着かない様子で身体を動かしたりしている。



「……背はあたしと同じくらい……肉付きも良い……健康的……巨乳……。」



……何をチェックしているんだ?


時間にすると、多分1分くらいの短い時間。だけど体感的には何時間もかかったような緊張した時間が流れた。



「……うん!いいじゃんあんた!」



そう言ってゆりりんの肩をバンバンと叩いた。



「根暗なヤツばっか集められた世界って聞いてたから、どんな酷い女が持ち主になっているかと思ってたけど……これならいいか!顔も良ければスタイルも良い!」



「は、はぁ……ありがとうございます……?」



不思議そうな面持ちでゆりりんはそう返事をした。


というかこの人、本当にゆりりんの顔を見に来ただけなのか……?



「メロウ様、ゆりりんの様子を見にここまで?」



アカリが俺の疑問を代弁するかのようにそう質問した。



「ああ、まぁな。旧型とはいえ、このあたしのEXコードを盗んで渡した……ダムレイの野郎がそこまでしたヤツを見てみたかったんだ。」



どこか楽しげにそう語るも、すぐに不機嫌そうな表情へと変わる。


そして今度はアカリの肩をバシバシと叩く。



「つーか聞いてくれよ!盗まれたのが5年くらい前のことだったんだけどさ!それをミノアに言ったら何て答えたと思う?」



「痛いですメロウ様。」



「ハズレ!正解は……。」



声を少し低くする。多分ミノア様のモノマネをしようとしている。



「え?5年も気付かなかったのに、今更それを怒るの?メロウの大雑把なそういうところ、直した方が良いよ。」



「……って言われたんだよ!どう思う?」



声真似の出来はともかく、あの人ってそういうこと言うんだな……。


ちょっと意外だ。親しい間柄には少しくだけた態度をしているのかも。



「痛いですメロウ様。」



「何だよその感想は?困ったもんだなぁ!」



多分この人、そんなに真面目な感想を求めてない。


そしてアカリ、絶対面倒くさいって思ってるだろ。


管理者メロウはひとしきりアカリの肩を叩いた後、満足したのか歩き始めた。



「そんじゃ帰る。見たいもん見れたし。じゃーなー。」



「えっ?本当にもう帰るんですか!?」



あと軽っ。



「ああ。あの野郎が創った世界に長居したくないし……サボってるとヒダガルに怒られるし……もう満足だよ。」



途中、声が小さくなる部分があった。そこが本音か。



「つうわけで帰る。このあたしの属性のEXコードを所持してるんだ。負けんなよ?」



「……はい!」



ゆりりんの返事を聞いて頷き、管理者メロウは手をひらひらと振って去っていった。


本当に帰っちゃったよ。あの人。


チャラい感じでどうかと思ったけど、変に真面目よりは結果的に良かったのかもしれない。ゆりりんからEXコードが奪われでもしたら大変だったわけだし。



「……さて、メロウ様の件も済んだことだし、アイラの件を進めよう。」



「ああ、そうだった。」



管理者のインパクトが強くて忘れてたけど、元々こっちを先に片づける予定だった。



「で、どうするんだアカリ?」



リナとミトと同じ部屋に入れていいのか?


仲間同士だから同じ部屋にした方が良い気もするけど、それで協力して内部から破壊、みたいな行動に移されても困る。



「同じ部屋で良いと思ってる。でも武器は没収する。」



「はいはーい。ま、そりゃあそうだよね。」



黙って話を聞いていたアイラはあっさりと腕輪とマントを外した。


外した装備は俺が受け取る。腕輪もマントも驚くほど軽い。日本だったら安物とか偽物とかしか思わないけど、異世界なら技術に驚くポイントだ。


でも管理者が創った装備なはずだし、そう考えると当然なのかもな。



「先に捕らえている2人の部屋に連れていく。部屋の中では自由に過ごしていいけど、外に出るには見張りの許可が必要。あと尋問することもある。何か質問は?」



「特になし!」



「分かった。じゃあ連れていく。それじゃナギト、ゆりりん。また後で。」



「おう……って俺は何をしていたらいいんだ?」



そのまま見送りそうになったけど、ただ待っているわけにはいかないよな。


この装備はそこらへんに放置していい代物じゃないし、よく考えたら俺は警備の仕事をしている最中だ。でも代わりに誰かが担当してくれているはずだし、中途半端に戻るのも迷惑か?



「この部屋に……いや。休憩してて。」



「そんじゃユリカ、まったね~。」



「ええ、また……また?」



ゆりりんが首を傾げている間にアイラはアカリに連れられて会議室を出て行った。


俺たちは会議室に残ったわけだけど……休憩しろと言われたし、ここにいると周囲に迷惑をかけるよな。どこか静かな場所にでも移動するべきか。



「じゃあゆりりん、どっか行くか。」



「分かったわ。」



仮眠室……は静かでも人がそこそこいるからダメだな。病院みたいな雰囲気があって、何か落ち着きにくいんだよな。


どこかテキトーに……空いている部屋で良いか。


そんなわけで、廊下のドアをいくつか開けて使われていない部屋に2人で入る。ランプに明かりを灯すとソファとかが置いてあった。談話室かな?


城を探検しないから何の部屋なのかよく分からない。まぁ誰もいないし座って休めそうだから別にいいか。



「そういえばさっき、ユリカって呼ばれてたけど……。」



2人で1つのソファに並んで腰をかけ、俺は気になったことをゆりりんに尋ねた。


すると彼女は顔を赤らめた。



「あ、あれはアイラがそう呼びたいって言うから……。でもナギトにそう呼ばれるとちょっと恥ずかしい。」



出会った時は、ゆりりんって呼ばれることに恥ずかしさがあったみたいだけど……どういう心境の変化があったのかな?



「そっか。じゃあゆりりん。アイラについてなんだけど……。」



悪い人じゃないってゆりりんは言った。


多分、あの空間に閉じ込められている時に色々話したんだろうけど、そこでどんなことを話したのだろう?アイラの性格的に、上手いこと騙したとか洗脳したって類はなさそうだけど。



「……世間話?……をしたわ。」



なんかちょっと間があったな。



「でもね、普通にアイラと話せたの。私たちから見たら敵なのかもだけど、個人として見たら悪い人じゃない……話せば伝わるって思ったの。」



それは先に捕らえた2人に対しても感じたことだ。


組織として見れば悪い連中なんだけど、一人ひとりがどうかと言われたら違うところもある。悪いのは戦争であって、個々の兵士ではない。みたいな。


でも全員がそういうわけじゃない。イサジたちが対峙した連中は、始末したと言っていたし、そうならなかったわけだ。



「話せば分かる……か。」



けど結局、侵略者と抵抗者という構図になっている以上、全体を変えることは難しい……というか不可能だと思うんだよな。


敵対勢力に戦う理由がなくなれば解決するとも思うんだけど、ゲーム感覚で攻めてきているみたいだからな。しかもアカリが敵リーダーに深手を負わせたから、向こうも意固地を張って攻めてくると思う。



「いや……でも……こっちに取り込めばあるいは……?」



「ナギト?」



戦わない理由を作ってやれば、敵も考えざるを得ない……?



「……アイラたちを説得して、こっち側に引き込めれば……向こうと話し合いに持ち込めるかも。」



戦争っていう枠組みで考えていたから、捕らえた人たちは人質で脅しとしての材料。


自分の知識で無意識にそういう風に考えてしまっていたけど、物事の見方・捉え方は角度によって変わってくる。


アイラたちが俺たちの味方になればいいんだ。敵も自分たちの仲間からの言葉なら聞き入れてくれるだろう。


戦争とはそんなに甘いものではないかもしれない。でもやってみる価値はある。



「闘って、こっちの言葉を聞いてもらって、納得してもらう。これを繰り返していけば敵はいなくなるんじゃないかって思うんだ。」



「うん!それ!良いと思う!」



ゆりりんは顔をパアッと明るくさせて身を乗り出してきた。



「きちんと話せば分かり合えるもの!それに、ナギトらしい考えで素敵だと思うわ!」



「お、おう……ありがと……。」



顔が近い。


ロートやシメア相手だと距離が近くても平気……だと思うんだけど、ゆりりん相手だと妙に意識してしまう。



「あ……ごめん……。」



「いや、別に……。」



気まずい。


でもこれで、光が見えてきた。

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