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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第6章 その手は何の為に
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6-6 蹂躙

「あっち盛り上がってんね~。あたしらもやろっか。」



「……EXコード、発動!」



呑気にコウキたちの様子を見つめるアイラと対照的にゆりりんは緊張した面持ちでそう呟き、自らの持つ能力を発動させた。


周囲に持て囃されていたというのもあるが、自分が強いという自負が少なからずゆりりんの中にはあった。だが自分と同格以上と言われるヴラヴィが前回敗北したこと、自分と同じ能力を持つ人物がいること。そういった要素が自信を喪失させる理由となっていた。


──でも、強がって……笑え……!


そう自己暗示をかける。


先日までのアイドル活動を通して、かつての自分が持っていた気持ちと胸の高鳴りを思い出した。笑顔こそが最強の武器。それを思い出していた。



「……へぇ。笑顔、カワイイじゃん。流石アイドルだよね。」



「ありがとう。褒めてくれるのは嬉しいわ。」



「素直に褒めてるだけだから、もっと素直に喜ぶところだぞー?」



そう言ってアイラは手をひらひらと振った。



「ゆりりん、だよね?テレビで見たことあるよ。大きくなったよね~……色々と。」



「……?」



モデルのような体形となったゆりりんの身体をアイラは見つめるも、当人にはその意思が伝わらずキョトンとした顔になる。



「……それに、やっぱ有名人って成長するのが早く感じるよね~。子役の子とかさ、もうそんなに大きくなったの!?って感じでさー。」



「……あの時はまだ中学生だったから、そう感じるものかもしれないわね。」



「そんなツンツンしないでよ~。あたしとしては、全部楽しんでいきたいんだからさぁ。」



アイラは羽織るマントを翻してみせる。



「あたしが持ってるのは、この大陸の外套(パンゲア・マント)と雷輪ラミエルの2つ。さっ、やろっか。」



「……!」



見た目からして不良みたいな子だと思ってたけど、想像してたよりは悪い子じゃないのかも……。


そんなことを頭の片隅で思いつつ、ゆりりんは戦闘態勢に入った。


そして──。



「こッ……のォ……!!」



もう1つの戦い──。


激闘が幕を切っていた。


ヴラヴィとイサジ、両者が囲むように襲いかかるがコウキはEXコードの力をもって完璧に対応していた。



「んぐッ……!!」



星剣が強い輝きを放ち、2人の視界を一時的に奪う。



「ムダだっつの。」



直後、撃たれた氷柱を星剣で斬り落とす。



「くそ……。」



それを目視し、スフェラは頭を悩ませる。


──狙撃に対応されている……。


あれは反応ではなく対応だ。スフェラはそう考えた。


目で捉え切れないほどの速さで撃ち込まれる氷柱を斬り落とす。何発撃ち込んでも対応されていることから、反射ではなく完全に捉えていることが分かる。


遠距離攻撃は通用しない……か。



「なら……サポートに徹する他あるまい。文字通り、援護させてもらう。死ぬなよ……。」



地上で化け物に近い敵と戦う仲間への言葉を呟き、スフェラは魔法による射撃を連発する。



「……ありがたいもんだね。」



視界が戻ってきたヴラヴィはそう零した。


防がれるのを分かっているけど、それを前提にして仕掛ければ行動を制限することは可能だ。


スフェラはそうやってコウキの足を奪っている。あとは直接対決しているこちらが頑張らなくては……。



「無茶でも何でも、やってみようじゃないか!」



ヴラヴィは高速で魔法陣を描き出す。


即興でもその場の思いつきでも、何でもぶつけないと勝てない相手だ。それに一度敗れた相手でもある。敗北を恐れる必要は私にはない。



「時よ……止まれ!」



描いた魔法陣をコウキへとぶつける。



「あ……効く……かよ!」



一瞬、コウキの動きが鈍くなった。


が、すぐに平常に動き出す。



「やっぱり不完全……いや失敗か。でも……。」



一瞬それで充分だ!」



その鈍くなった一瞬の隙。


そこにイサジが斬りかかった。



「ムダなんだよッ!」



星剣と刀が激しくぶつかる。


イサジは両手で柄を握って斬りかかり、鍔迫り合いを避け左右に細かく刀を振って揺さぶりをかける。対するコウキは太刀筋を見極めながらも、周囲への意識も薄めない。


EXコードによる身体能力の向上、それに伴う動体視力の上昇。そしてそれらによって生まれる心の余裕。


そういった要因が頭を冷静にさせ、視野が広がる。


コウキにはイサジの攻撃を受けながらも、ヴラヴィが次の攻撃を仕掛けようと動き出しているさま、死角から狙撃の構えを取るスフェラの気配を察知していた。



「あー……つうかメンドくせぇ。」



イサジの刀を強く弾くと、コウキは左右に素早く動き翻弄する。



「……!」



捉え切れん……!


イサジとスフェラは同時にそう感じた。


高速で動く対象に無理に攻撃を仕掛けにいけば、返り討ちに遭うだけだ。


そういった直感のような判断が2人を様子見の状態にさせ、その隙を突いてコウキはヴラヴィに肉迫した。



「不意を突いたつもりかっ!?」



ヴラヴィは慌てる様子もなく、迫りくる星剣に大剣をぶつけに動く。


──折れる!


だけど大剣が折れようが構わない。狙うべきは……折れた直後!


剣が触れ合うと、紙が刃で切れるように大剣は綺麗に中央から切り落とされた。その衝撃で弾かれそうになる手から柄を放し、ヴラヴィは背中を丸めた。


そして地面を蹴って懐へと飛び込む。


コウキは星剣を振りきった体勢、守る術は空いた左腕しかない。


──いくら強化されていても、魔法を至近距離で受ければ……!


一溜まりもあるまい!



「喰らえッ!!」



手に雷と炎の魔法を溜め、コウキの腹部へと叩きつける。


……前にコウキがその腕を掴む方が速かった。



「オラアァァ!!」



ヴラヴィの腕を掴んでその場で回転し、その勢いをもって投げ飛ばし城壁へと叩きつける。そして星剣を投擲し、彼女の身体に突き刺し磔にする。



「ぐ……ああああああああああああっっっ!!!!!」



絶叫が響き渡った。



「よそ見してんじゃ……ねェぞ!!」



「……!」



動揺した一瞬、その一瞬で間合いを詰めイサジへと鞘から引き抜いた炎刀ミノアを叩きつける。



「ぐわっ!?」



イサジは刀で受け止めようとしたが、衝撃に堪え切れず吹っ飛ばされ転倒する。



「ヴラヴィ……イサジ……!」



スフェラは身を乗り出して安否を確認する。


それと同時に轟音が響き、城門が破壊されるのが確認出来た。



「ッ……!」



ゆりりんもやられたのか……!?


もしそうだとするのであれば、残るはイサジ1人のみ。通常であれば加勢にいくところだが、3人がかりでも敵わなかった相手。行ったところで無駄というものだ。



「イサジ!引き留めておけッ!」



スフェラは地上に向かってそう怒鳴り、城内へと駆けこむ。


まともな戦力はマギサくらいしか残っていない……!


だが、それに賭けるしかない状況となってしまった。それまで持ちこたえてもらう他ない。



「応!任せておけ!!」



スフェラの声を聞いたイサジは立ち上がりながらそう叫んだ。


返事はない。もう移動したのだろう。


そう判断しコウキを睨みつける。



「通りたいのであれば、俺を倒してからにしてもらおう!」



「どっかで聞いたようなセリフを……まぁやりたいってのなら、相手になってやるよ。」



磔にされたヴラヴィを見つつ、炎刀ミノアを見せつけるように振ってみせる。



「つうか、心配してやんなくていいのか?仲間じゃないのか?」



そして挑発してみせるが、イサジの表情に変化はない。



「戦場とはそういうものだ。」



戦場ここに立つ以上、誰もが死ぬ可能性がある。


イサジは元々そういう考え方を持っており、また命の犠牲なくして戦争は成り立たない。そういったことも理解していた。


ヴラヴィがやられたことにショックこそあるものの、それを引きずっていては自分も死ぬ。それを心で理解している。



「それに、だ……。」



まだ生死を確認していない。それをするまでは生きていると信じ、余計なことをしない。



「勝利を確信するには早すぎる。それを知れ!」



イサジが一歩踏み出した。



「あっそ。」



その間にコウキは2歩進んだ。


イサジが間合いを詰めるよりも速く、コウキは間合いへと入る。


炎刀が縦方向に一直線に振られる。フェイントも何もない、安直な太刀筋だ。



「ぐぅ……!」



イサジはそれを真正面から刀で受け止めてみせ、衝撃で後ずさった。


実力差を誇示するための一撃。たった一撃で両者の力に差があることを示してみせた。



「……だが!」



その程度で心が折れはしない。


それだけで勝敗が決まるというのであれば、この世に競技は存在しない。駆け引きや技術、気の持ちよう、そういったいくつもの要因が勝敗を分かつこととなる。



「負けはせんっ!」



力で競り負けるというのであれば、別の面で補う。


──それが勝負というものだ!



「うおおおおおっっっ!!!」



雄叫びを上げ、刀を振り上げて一気に振り落とす。


その動作を見せて直前で腕の動きを止め、合わせにきたコウキの刃は空を切った。



「チッ……!」



刃が届く前にコウキは後方へと大きく跳んだが、完全には間に合わず額から僅かに血を流した。


──こいつ……。


うるせぇくせに、意外と考えて動きやがる……!


タイミングを意図的にずらした攻撃にイラつきながら、コウキはその場で小さくジャンプしてステップを踏む。



「む……。」



──何か仕掛けてくる。


イサジはより一層集中しつつも、コウキの意識が完全に自分に向いたことに安堵する。


城門が破壊されている今、無理に戦わずに奥に行くことも可能な状況だ。だがあの態度からして、完全に戦闘に意識が向いている。



「…………。」



刀を正面で構え、敵を見据える。


どう動く?どう仕掛けてくる?神経を研ぎ澄ませ。一挙手一投足を見逃すな……。



「ふんっ!」



コウキが動いた。


左右にフェイントを入れつつ、高速で迫る。


イサジはその一撃目を防ぎ、足を動かし正面でコウキの姿を捉えようと動く。


左からくる……いや……牽制!



「右っ!」



フェイントを読み切り、右からの攻撃を防御する。


──攻めに転じられん……!



「そんなんじゃ……ムダなんだよッ!」



コウキのEXコードの輝きが強くなる。



「んぐっ……しまった……!」



強い剣撃に刀が弾かれ、手から飛ばされる。


他に武器を所持していない。次の攻撃を受けることは許されない。速さで負けているが、それでも回避を試みるしかない。


その時、背中に風を感じた。



「イサジ!避けろっ!」

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