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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第6章 その手は何の為に
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6-5 後衛戦

ナギトがカゼと交戦し始めた頃──。



「よ・く・も!この私の可愛いかわいいコーキラと戦ってくれたわねェ!!」



カノナス城・会議室前──。


ナギトたちが勝利し、コーキラがロープで縛って連れて来た2人の少女・リナとミト。その2人を前にしマギサはワナワナと震え怒りのポーズを示していた。



「ま、まぁまぁ……勝ったわけだから……無事だったし……。」



ロートが何度もなだめ、その度にマギサは落ち着いて少し経つとまた暴れようとする。そんな時間が続いていた。


コーキラから何か言ってくれるのが一番なのだとロートは思ったが、彼は今この場にいない。どこか故障していないかチェックするために別室にいる。


当然マギサが自らの手で確認したいと騒いだが、司令官が職務を放棄してはならないと周りに止められ、渋々メンテナンスの権利を譲ったのだった。


ちなみにコーキラはティクニティスという人からメンテナンスを受けているらしい……どんな人なんだろう?


ロートはそう思った。



「えっと……ソラノさん?だったよね?」



ミトに声を掛けられロートは肩をビクッと震わせ、マギサの背中に隠れる。


覚悟を決めたとはいえ、かつて自分をイジメていた連中の仲間。恐怖心がどうしても出てしまう。



「う……うん。怪我は……大丈夫?」



マギサの背中に隠れたままロートは返事をした。


何を言えばいいのか分からないため、無難な話題を……と状況に合わないことを考え、何故か敵の心配をする発言が口から出た。


けれどミトはそれを不思議がったり笑ったりすることなく、優しく頷いた。



「うん。そちらの……魔女?さんに回復魔法をかけてもらったから。リナはまだ眠ってるけど、平気そう。」



「そ、そう……えっと……。」



「その、私たち……ソラノさんとは違うクラスだったし、部活も違ったから……コウキ君から聞いたことがあるってくらい。だから何て言えば良いか分からなくて……。」



気まずい……。


双方がそう思い始めた頃、2人の会話を間から聞いていたマギサが口を開いた。



「あんたたち……知り合いだっていうのなら、そのよしみで教えてくれないかしら?コーキラのことで恨みもあるし、洗いざらい吐けば今なら許してやらなくもなくもないわよ?」



絶対許す気ないじゃん……。


ロートはそう思ったが口にはしなかった。思ったことをハッキリ声に出せる性格なら、そもそもこんな性格にならなかった。そういう感想も抱いた。



「……分かりました。私で知ってることで良ければ……。」



ミトはあっさりと首を縦に振った。



「じゃあ、さっさと吐いてもらおうかしら。ここにばかり構ってもいられないし……。」



そう言ってマギサはチラリと視線を壁の方へと送った。


こうしている間にも戦況は変化していく。今のところ新たな伝令は届いていない。だが別行動の部隊がいる可能性が高いというロートの報告があった以上、決して油断出来ない。


外で戦況を直に確認したい。そういう思いがマギサにはあった。



マギサがミトと対面した頃──。


カノナス城・城門前──。


最終防衛ラインとも言えるこの場に姿を現す人物の影が2つあった。



「あれ?こんだけ?もうすぐクリアだっていうのに、少なすぎるんじゃないのか?」



その1人──コウキはそう言って笑った。


その絶対的な力と戦績によって裏付けされた、強者による余裕の笑みだ。



「来るまでに沢山いたわけだし、ソッチがメインだったんじゃん?でもまぁ、これならあたしたちだけで充分だけどねー。」



もう1人──アイラはそう言って伸びをする。



「さぁて?私たちだけで充分だっていう判断だけど……そちらこそ、たった2人だけで平気かい?」



城門を背にして仁王立ちするヴラヴィはそう挑発し返した。


ヴラヴィの左右にはゆりりんとイサジの2人。計3人が城門の前に立っている。


前衛中衛には満遍なく兵を配置したが、後衛地点である城門前には配置しなかった。理由の1つとして、攻め込ませないため、というのがあった。


アイラの推測通りであるが、敵のスタート地点を中心に多く兵を配置させて城まで辿り着けないようにする、という策だ。


そしてもう1つの理由。それはこの場に兵は必要ないという判断である。前衛中衛の地点を突破してきた時点で強者ということが分かる。そのような者を相手にするのに数での戦いは意味がない。少数精鋭で迎え撃つ方が良い。


ヴラヴィはそう考えたのだった。



「ほざけ。前回、俺1人でも充分だったんだ。たった3人で何が出来る?」



「1回通用すれば以降も全て……っていうわけかい?随分と子供じみた思考をするもんだね。」



煽り返しつつ、ヴラヴィは思考を巡らせる。


先程、ロートのドラゴンが飛んできて、それから少し間を空けてコーキラが飛んで帰ってきた。報告なり何かしら起きたってことだろうし、司令官のマギサから指示が来てもおかしくない……。


このまま会話を続けて、マギサから何か届くまで粘るかべきか?だが別の地点で大きな問題が発生しているのなら、私たちを信頼してここは後回しになる可能性が高い。


もし後者であるならば、引き延ばしは悪手だ。早めに敵を倒して誰か1人を前線に送るべきだ。


難しいところだ……。未来を視ることが出来ない以上、どちらかの選択肢を正しいと信じて行動する他ない。



「……まぁ、やるしかないよね。」



そう呟いてヴラヴィは魔法で大剣を創り出した。


それを片手で掴み、2回3回と振り回す。



「イサジ、2人でコウキの相手をするよ。」



「応!承知した!」



「ゆりりんはあのアイラという少女を。頼んだよ。」



「ええ。分かったわ。」



互いに臨戦態勢に入る。


永遠のような緊張感の時間、それは一瞬で終わる。


動いたのはコウキだった。


ヴラヴィに詰め寄り、その手に持つ星剣ヒダガルを喉元目がけて振るう。



「そうくるよね!!」



ヴラヴィはその場で屈んで攻撃を回避。しかし動こうとはしない。


──そのまま迎え撃つつもりか……いや……。


2撃目を放とうと考えたコウキであったが、すぐにその考えを払拭し横に跳ぶ。その直後、コウキが立っていた位置に刀が振られた。



「……む。」



「ありゃ?」



イサジとヴラヴィは同時にしかめっ面になった。


打ち合わせした攻撃でも何でもない単純な連携だが、こちらを甘く見ているのなら有効な一手であるとヴラヴィは考えていた。



「まぁ……そう簡単な話じゃないよね。」



挟み撃ちは効かない……むしろ連携を取った経験がない以上、繰り返すのは危険だ。


呟きながらそう判断し、ヴラヴィは立ち上がり攻撃を仕掛けにいく。


2撃3撃と両者の剣が振られ、激突する。



「……フッ。」



コウキが微かな笑みを口元に浮かべた。


その直後、星剣がまばゆい光を放った。



「ッ……!」



ヴラヴィは咄嗟に目を瞑るもそれでも強い光を感じ、目が開けられなくなり視界が暗闇の世界となる。


──目で見なくても感じ取れる魔法でもあれば良いんだけど……。


独りで戦っているのであれば、この状況では焦ってまともに思考することもままならないだろう。



「やらせはせんぞ!」



イサジが2人の間に割って入り、首をはねようとした星剣を刀で受け止める。



「お前、何なんだよ?邪魔なんだけど?」



「戦とはそういうものだろう!」



鍔迫り合いとなり、イサジの身体がじりじりと後退していく。


──なんという力だ……!


背後には戦える状態ではないヴラヴィがいる。退くことは許されない。


それならば……!


……いなす!



「ヴラヴィ!脇に跳べ!」



「……分かった!」



返事を聞くや否や、イサジは腕を曲げてコウキを前のめりにさせ、それと同時に上体を捻って躱し相手を前進させた。



「んなっ!?」



一瞬にして体勢を崩されたコウキは驚きの反応を見せ、隙をも晒した。


だがこちらも体勢が悪い。攻撃に移るのに一呼吸必要だ。


イサジはそう判断し、無理に刀を振るおうとせずにヴラヴィに視線を送る。


それを受けてヴラヴィは小さく頷いた。視界も良好となってきた。今なら普通に戦える。そういう判断があってこその攻撃権の譲渡だ。


大剣の柄を両手で握り、隙を晒すコウキの背中目がけて叩きつけた。



「……クッソがっ!!」



その刹那、コウキは吠えた。


乱暴に身体を回転させ、星剣を大剣へと当てる。


その衝撃でヴラヴィの大剣が折れた。



「なっ……!?」



不十分な体勢から、乱雑な攻撃でこれほどの威力が……!?


一瞬の動揺を見せたヴラヴィ。武器を失ったその無防備な身体に大振りの星剣を当てようとする。


そのコウキの肩に太い氷柱が突き刺さった。



「んがッ……!クソ……!」



コウキはその場でよろめき、氷柱が飛んできた方向を睨みつける。



「……チッ。」



城壁の上に立つ狙撃手スナイパー・スフェラは舌打ちした。


──狙いにくい奴だ。


魔法による狙撃が得意な彼は、そこからずっと攻撃の機会を窺っていた。地上では3人が待ち構え、上から隙を見て狙撃する。それが城門前の後衛陣の戦術だ。


仕留め損なった。



「……けど。」



優勢にはなった。


折れた大剣を投げ捨て、ヴラヴィは新たな大剣を魔法で用意する。


スフェラの魔法による狙撃を悟られないように魔法を使用せずに戦ってきたけど、もう気付かれたし解禁して戦える。



「攻撃が2人と援護が1人。戦力差は充分だと思うよ?どうするんだい?」



「ハッ……どうもこうも……。」



コウキは肩に突き刺さった氷柱を無理やり引き抜く。


瓶の栓を抜いたように血が溢れ出すが、それを気にする様子はない。



「……ここまでってやつだ。EXコード、発動。」



コウキの左眼の下に、黄金に輝く竜巻の紋様が現れる。



「こいつを使わなくても充分だと思っていたが……来いよ。遊びは終わりだ。」

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