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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第6章 その手は何の為に
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6-3 三人寄れば文殊の知恵

「……!」



風祭りを放つ瞬間、世界がこれまで以上に見えた。


必殺技を見て息を飲むリナ。目を見開いて身体に力を入れるのが分かった。そして風の刃が彼女へと届く前に姿を消し、瞬間移動を行ったのだと分かる。


──多分、後ろ……!


必殺技が放ち終わるのと同時に、俺は勘で振り向いて刃を振るった。



「うぎゃっ!?」



アタリだ。小剣はリナの脚を掠めて通り過ぎていき、彼女は身体を無理やり逸らして回避した。


──よし。


読みは当たっている。瞬間移動で回避したことからも、必殺技は通用するものと考えていい。



「このっ……凄いの持ってるなぁ……!」



前かがみになって歯を見せて笑うリナ。


その姿は侵略者のそれではなく、純粋に強者との試合ゲームを楽しんでいるような……競技選手のようなものであった。



「……そっちもな。」



そう返事をしつつ、リナの様子を観察する。


彼女のクセは分かってきた。彼女にとって瞬間移動は、距離を取るためか背後に回って決めるためか、その2択と考えていい。だから使われた際には、背後を警戒しておけばいい。


一方、その瞬間移動に予備動作があるのかどうか、それが分からなかった。もしそこにクセか何かあるのなら、それを見極めておきたい。


瞬間移動がいつ来るか分からない状態では、常に背後を取られることを警戒しておかなくてはならない。つまり、攻撃に専念出来ない。



「陸上とか……やってたのか?」



「うん。短距離走をね。ミトもだよ。」



元陸上部か……。さっき全身に力が入ってたように見えたのは、選手としてのクセか?



「そんじゃ……まだまだいくよ!」



「来るッ……イリス!」



霊装を短く、幅広い形状へ──。


次の瞬間、リナの姿が消えた。俺はそれを目視するや否や振り向き……。



「──月宴!」



防御に特化した必殺技で攻撃を防ぐ。



「なッ……!?」



意表を突いたであろう攻撃を完璧に防がれ、リナは驚いた顔を見せる。多分、彼女にとって瞬間移動からの背後への攻撃は必勝パターンだ。


自信を持っている攻撃だからこそ、防がれた時の驚きも落胆も大きいに違いない。


連打される手足からの攻撃を防ぎ、薙ぎ、反撃の機会を窺う。


一打一打の攻撃が重い。きっと転移した時に身体能力が上がっているんだ。



「でも……!」



たとえどんなヤツであっても、全力の攻撃をし続けることは出来ない。


体力や肺活量の限界というのがある。どこかで一呼吸置いて休まないといけない。動き続けることは不可能。


それを見極めるまで、月宴で防ぎ続ける……!



「くぅ……!」



どれだけ攻撃してきたかは分からない。多分、時間にすると数十秒にもならないくらいの時間。それだけ濃密に攻撃を繰り出してきたが、苦悶の表情へと変わっていって俺から離れた。


好機チャンス……!


攻撃へと出ようとしたが、その前に瞬間移動をされた。


急いで振り向くが、背後にリナの姿はなかった。俺からもっと離れた地点……コーキラとツトムが戦っている地点、仲間のミトがいる方へと移動したようだ。



「むぅ……。」



これで振り出しに戻ってしまった。もっと合流されないように、警戒して戦うべきだったか。



「ふぅ…………。」



息を吐いて、呼吸を整える。


イリスも動いてくれるから相手ほどではないとはいえ、必殺技の使用には体力が必要だ。でも、俺が休む時間を作れば、当然相手も休む時間が作れる。悠長にはしていられない。


陸上部に体力で勝てるかぁ……?


長期戦は不利だろう。それに戦いはここだけじゃない。あんまり時間をかけていてはいられない。



「いくぞイリス……鳥躍だ。」



必殺技のエネルギーを使って、一気に距離を詰める。距離が伸びれば消耗もその分激しくなるけど、ここは仲間と合流して戦うことが優先だ。


細長くした霊装を下に向けて構え、右足で地面を強く蹴って跳ぶように移動する。


コーキラたちの元へと辿り着くと両足でより強く地面へ踏み込み、無理矢理必殺技を中断させて急停止する。いつもはこのまま上へと跳ぶから、脚にかかる負荷が大きい。



「んぐっ…………こっからは3対2だ。」



「だね。」



俺たちは背中合わせで集まり、リナとミトは並んで俺たちを待ち受ける体勢を作る。



「どうするんだ!?悪いけど俺じゃあ全然戦力にならないぞ!」



ツトムが焦った声で相談してくる。


確かに身体能力で上回れているなら、ビーム攻撃だけで戦うのは厳しいか。きっとさっきまで、コーキラが頑張ってたんだな。



「ミトの能力……どんな感じだ?」



行動不能にしてくるという、強力な能力の持ち主だ。発動条件でもクセでも分かれば多少は戦いやすくなるはず。



「動作からして、触れることが条件だと思います。けれど、素の身体能力が高いので、素手でも強いと思います。」



「サンキュー、コーキラ。」



リナの能力スピードで相手を翻弄し、隙を見せたところにミトの能力で封じる。そういうコンビってことだ。



「……!ナギトさん、何か突破口が?」



「……いや分からん。」



合流させてしまった以上、隙のないコンビに見える。


ミトの能力は、5つまで同時に固定出来るってリナは言っていた。オーバーした場合は古い順に解除されていくのか、意思で選択出来るのか、そこが分からない。


能力を使わせまくってダイチのを解除してもらおうとも考えたけど、仕組みが分からないからには期待しない方がいいな。



「分からないって、それじゃあ……!?」



じゃあどうしたらいいのか。


簡単に隙を見せるような即席のペアじゃない。同時に2人を相手にしようとするのは間違っていると考えるべきだ。


けど合流して戦った方が良いと思われたのなら、もう一度分断するように仕掛けてもムダだろう。むしろそう攻撃することで、こちらが隙を晒してしまうかもしれない。


ミトの能力によって動けなくなってしまったらアウトだ。やはり隙を見せないようにしつつ、相手の弱点を探っていくしか……。



「行動不能……?ダイチは声は出せてたな……。」



つまり、完全に動けなくなるわけじゃないってことだ。固定っていう表現をしていたし、その場から動かなくなるって考えていいかも……何か攻略のヒントになるか……?


リナに触らせて連携を断つ?


……いやダメだ。オンオフが効かないってことはないはず。暴発しないようになっていると思う。



「……待てよ?行動……不能……か……。」



1つ閃いた。



「コーキラ、ツトム、俺の言うことを聞いてくれるか?」



普通にやったら勝てないような相手だ。その場の思いつきの作戦でも、実行してみる価値はあると思う。



「……というわけだ。乗ってくれるか?」



「勿論だ!ここでのリーダーはお前みたいなものだろ?」



「そうですよナギトさん!僕たちはナギトさんの作戦に従います!」



「2人とも……!ヨシ!反撃開始といこうか!」



2人をその場に残して俺はミトに向かって突進する。



「行くぜェ!久しぶりに……無敵剣だァ!」



長剣となっているイリスを前に突き出し、ベルトに差す動作をしつつ道路に落ちている何かの破片を拾い上げる。この条件によりバグ技が発動!


今、目に見えない無数の刃が俺の前に振られ続けている状態となった!



「……?何をしたかは分からないけど、ムダだよ。」



そう呟いてミトは手を前に出した。


このままだと指が、手が斬られてしまう状況だが、行動不能の能力の発動の方が強いみたいだ。感覚で無敵剣が消えたのが分かる。


これで俺は無防備となった。所持している武器は腰のベルトにあり、両手には何も持っていない。



「ほら、後は貴方自身を……。」



ミトはそのまま俺の顔に向かって手を伸ばしてくる。



「まだだァ!」



ここが勝負だ!


ミトの手が俺に触れるよりも速く!


重心を前へと落とし、背中を丸めて前傾の体勢を作る。そして道路を蹴ってミトの腕の下をくぐり、脇を通り抜けて背後を取る。


そして彼女が振り向くよりも速くイリスを引き抜き……。


俺はその場で屈んだ。



「えッ!?」



姿は見えないが、背後からリナの驚いた声がした。


俺が意味不明な行動を取ったことに驚いたのだろう。だが、俺にとってはこれは意味のある行動だ。



「今だァ!」



「はいっ!」



少し離れた地点にいるコーキラの返事が聞こえ、彼の両手が発射された。腕から離れた両手はロープによって繋がったままロケットのように飛び、リナの身体を左右からガッチリと捕まえた。



「決めろぉツトム!」



「任せておけ……発射ァ!!」



目からビーム!


瞬間移動が使えなかったのか、それとも諦めたのか。それは分からない。


リナは攻撃を回避せず、そのままビームを喰らった。


黒い煙が巻き起こり、辺りが見えなくなる。



「どうなったっ!?」



「リナッ!!!」



ミトのより大きな声によって俺の声はかき消された。


友が目の前で撃たれた上に黒煙まで発生したのだ。平静でいられるはずがない。


とは言え……。



「流石にそこまで鬼じゃないから。」



ダメージを与えるつもりであっても、殺すつもりはない。


コーキラが肩を動かして手を引っ張ると、黒煙の中からリナの身体が出てきた。


汚れたり怪我を負ったりしているが、気を失っているだけだ。



「ちゃんと火力を手加減したからな。」



「上手くやりましたね。」



コーキラはそのまま伸びた手に付いているロープでリナの身体をグルグルと縛る。



「作戦通り、確保完了です。ナギトさん。」



「ああ。……さて、交渉といこうか。」



縛られたリナの姿を見て絶望的な表情を浮かべるミトに語りかける。



「俺たちはあんたたちを殺す気はない。だからここは抵抗せず、大人しく捕まってくれないか?もし言うことを聞いてくれるのなら、これ以上危害は加えないし、戦争が終わったらちゃんと釈放するから。」



コウキやアイラのようなゲーム感覚のヤツにはこの交渉は成立しないだろうが、この2人はそうでないと思ってる。


似たような感覚が少なからず持っているだろうけど、侵略し命を奪うことに抵抗がある感覚も持ち合わせているはずだ。



「分かった。言う通りにする。」



悩んだり抵抗する素振りを見せることなくミトは即答した。


他の連中もこんな感じだったら楽なんだけど……。


何はともあれ、最終的に穏便に済ますことに成功したと言って良いだろう。


これでまずは1勝だ。

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