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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-24 伝説へ

「──出来るだけ間隔を詰めて並んでください!それと会場前で荷物検査を行いますので、ご協力をお願いします!」



ついにライブ本番の日がやってきた!


ヴラヴィとマギサがあらゆるところで宣伝してくれたおかげで満員御礼!これだけ多くの人が集まれば、共に戦ってくれる有志も集ってくれることだろう。



「……にしても、ホントに凄い量だな。」



列整理の仕事をしながらこぼす。これだけ人が来るのはコミケ……には流石に劣るだろうけど、そのレベルの来場者数なんじゃないかって思う。


冬だというのに熱気で汗が流れる。大声を出しっぱなしなのとイサジとの特訓の筋肉痛が身体に響き、早くも疲労を感じる。



「来場者特典はお1人1冊となっております!人数分用意していますので安心してください!」



遠くの方からダイチがそう叫ぶ声が聞こえた。


こりゃあ今日はどこもかしこも大変そうだ。騎士団の人たちにもスタッフとして協力してもらっているけど、それでも人手不足って感じだ。



「ナギトさん!そろそろステージの方に移動をお願いします!」



「え?もう?まだ大丈夫じゃないの?」



コーキラが駆け寄ってきてバトンタッチを伝えてきたけど……ライブが始まるまでまだ大分時間があるし、この人混みだと俺がココにいた方がいいと思うんだけど……。



「ココは僕がやりますので。ゆりりんさんのサポートに回ってほしいとヴラヴィさんが言っていました。」



ヴラヴィが?


……まぁ彼女はパーティーを開いたりしてこういう経験が豊富なわけだし、彼女だからこそ見える算段というのがあるのだろう。



「……分かった。じゃあ任せるわ。ヨロシクな!」



「はい!任せてください!」



コーキラに仕事を託してステージ会場の方へと向かう途中、客列の方から声をかけられた。



「久しぶりだな!こういうイベントの主催側にいるって凄いな!」



「ん?ツトムにキクロー!?来てくれたのか!」



2人はニッと笑った。


ツトムはこの町で元々働いているから何度か会ったけど、キクローに会うのは本当に久しぶりだ。ロートと出会った日に、キクローにも会ったんだっけな?



「……また、面白そうなコトをしてるじゃねぇか……兄ちゃん……!」



「お、お前らは……!温泉愛好会……!」



続いて会ったのは温泉愛好会の面々だった。名前は知らない。


女湯を覗こうとするしょうもない奴らで、この俺も何度か誑かされそうになった過去がある。強靭な意思で打ち破ったがな。



「……温泉と可愛い女の子がいるところに……俺たちは現れるのさ……!」



「……あぁ、うん。」



今回も美少女の気配を嗅ぎつけてやって来たってわけか。まぁ多くの人に来てもらった方がいいわけだし、これでいい……のかな?


しかし、ここのところ会ってなかった人たちも来てくれるとは……この世界が本当に変わる日となりそうだ。


……敵だった連中も来たりしてるのか?……いや、まさかな。



「今、どんな感じ?」



ステージ裏に辿り着くと、衣装に着替えたゆりりんがスタッフの人たちと会話しているのが目に映った。爽やかな水色のアイドル風の衣装だ。スカートが結構短い気がするけど……これが普通なんだろうな。



「最終確認をやってる。曲順の確認とか、どこのタイミングでお色直しをするとか。」



マネージャー的なポジションに納まったロートがそう教えてくれた。



「そっか。……緊張するだろうしな。」



人前に立つ経験があっても、あれだけ大勢の人の前に1人で立つのは緊張することだろう。歌って踊るだけでもハードルが高いのに、挨拶したりもするだろうし……今更ながら、ゆりりん1人に負担を掛け過ぎることとなってしまったな。


だから今話し合ったり小声で歌ったりしてるのは、最終確認ってだけじゃなくて緊張を紛らわそうとしているっていうのもあるんだろう。


何事も、平常でいることが大切だから。



「あ、ナギト。どう?似合ってるかしら?」



俺が来たことに気付くと、ゆりりんはスタッフとの会話を止めてこちらに歩いてきて、その場でくるっと回って全身を見せてくれた。



「ああ、うん。その、ヒラヒラしてて可愛いと思う。」



その動作に妙にドキドキしてしまい、なんか変な声が出てしまった気がする。


回転に合わせてふわっと広がったスカートに目が行ってしまったけど、きっとバレてない。


いや下に見えても大丈夫なように何か穿いてるはずなんだけどさ。それでも気になってしまうのは男の性か。悔しい。でも気になっちゃう。



「ナギト……?」



ロートがジト目で見つめてくる。


さながら浮気を怪しむ妻のようだ。妻じゃないけど。



「ほ、他にも衣装があるんだろ?そっちは?」



「それは今朝、確認したから大丈夫よ。もう時間があまりないし、あの衣装を着るのは本番の後半から。ちゃんと見ててね?」



「わ、分かった。邪魔になんないトコから見るよ。」



あー……ダメだ。


なんか妙に意識してしまう。多分、普段と全然違う雰囲気だからだな。衣装と環境のせいで、本物のアイドルって雰囲気が出てる。そのせいで緊張してしまう。


反対にゆりりんは普通の会話をしたことでリラックス出来たのか、落ち着いた雰囲気を纏っている。なんにせよ、緊張がほぐれたのならいいか。



「そろそろ本番でーす!スタンバイお願いしまーす!」



「あ、はーい!それじゃあ……行ってくるね。」



「ああ。頑張れよ。」



小さく手を振ってゆりりんは表の方へと走っていった。



「さて、俺たちも移動するか。」



舞台裏でのサポートの仕事もあるけど、アイドルがステージ上にいる間はやることが特にない。だからステージ脇とかで、ひっそりと観ることが出来る。


あんまし近くとかにいるとクレームが飛んできそうだから、警備員の隣とかで見るのがベターかな。



「……どんな感じになるんだろうね?」



「さぁな~……でも、楽しみだ。」



「うん。」



そう言ってロートと笑い合った。


ここまで来たら、後はもう楽しむだけだ。スタッフ側だけど、1人の観客としてライブを観よう。



「でも、これだけ満席だとコッチが緊張して……。」



そこまで言ったところで、パンパンと花火が打ち上がった。


そして観客から怒号のような叫び声が響き渡る。



「えっ!?何事!?」



驚いてロートはキョロキョロと辺りを見渡す。


俺も心臓がビクンと跳ね上がったけど、今のが開催の合図であるとすぐに理解した。


カラフルな煙がステージ上で吹き出し、その中からゆりりんがジャンプして姿を現した。



「みんなッーーー!!!今日は来てくれてありがとッーーー!!!」



口元に付けたマイクからそんな元気な声がスピーカーを通して会場中に響く。


さっきまでの緊張もリラックスも何だったんだってくらいの弾ける笑顔だ。



「みんなにお願いしたいことがあって、このライブを開催することにしました!でもその前に!私がいっぱいの元気を届けるから、ちゃんとついて来てねッーーー!!」



再び怒号のような雄叫びが響き渡る。


もの凄い盛り上がり様だ。見ててちょっと怖くなるくらい。そしてステージでいくつものライトに照らされ、はつらつとした笑顔を見せる彼女はまるで別人のようにすら見えてくる。



「今日はみんなが知ってる曲をいっぱい歌うからねーー!それじゃあ早速1曲目!いっくよッーーー!!!」



その言葉に合わせてステージ後方にいる演奏者の人たちが軽快な音楽を奏で始める。


その音に合わせてゆりりんも身体を揺らし始め、ダンスを観客へと見せる。



「あ、この曲、知ってる。」



「有名どころのアニソンを使うって言ってたしな。これでお客さんの心もわしづかみだ。」



ゆりりんの口から紡がれる詩に合わせて、暗くした客席から様々な色のペンライトが振られる。ちなみにペンライトはマギサが開発して物販エリアで販売している。ちゃっかりしてるなぁ。



「これが……アイドル……!」



まだ1曲目だというのに、もうすでに会場中が一体となっている感覚がある。


俺も一緒になって歌いたい気分になってくる。これがアイドルの力なんだろう。実際にここで歌い出したら絶対に怒られるからやらないけど。


まぁ……でも……。



「一緒に盛り上がるくらいならいいだろ。ロート!俺たちもやるぞ!」



「えぇ……?けど、こういう時くらいしか騒げないか。分かった!」



ペンライトは持ってないけど、お客さんと一緒になってゆりりんコールをして腕を天へと突き上げる。


それからはぶっちゃけ、あんまり覚えてない。盛り上がりすぎたせいか、あっという間に数曲終わっていて、ゆりりんは着替えるためにステージ裏へと戻っていった。


そこで俺たちも我に返り、慌てて戻る。サポートするために来たのに、ずっと騒いでたらダメだ。



「ゆりりん!凄い良かったぞ!!」



「ありがと。ふぅ……10分だっけ?急がないと……。」



スタッフに汗を拭いてもらいながら、ドリンクを飲んでいる。ステージに立ってる時は分からなかったけど、肩で息をしている。かなり疲れている……それを見せないようにしていただけなんだ。



「慌てるなよ?何か用意するものあるか?」



今は演奏者の人たちが何か演奏している。ゆりりんの戻りが多少遅くても、きっとアドリブで繋いでくれるだろう。だから今は、ちょっとでも長く休んだ方がいい。



「……大丈夫よ。みんなと一緒に盛り上げてくれたら、それでいいの。そろそろ着替えないと。あ、念のため歌詞カード持ってきて。」



なんか、ヘタに介入しようとするとかえって邪魔してしまう気がした。



「──行ってくるわね。応援よろしく!」



オレンジ色のドレス風の衣装に着替えると、そのままステージへと向かっていった。



「ホント、凄いな……。」



疲れているのに、すぐにステージに戻っていった。きっと、疲労以上に楽しいって気持ちが強いんだ。それだけ好きで、全力でやってることなんだ。


ステージ脇に俺たちが戻ると、既にライブ後半戦は始まっていて、ゆりりんはこれまで以上に元気な姿でステージを跳び回っていた。


始まりがあれば、終わりもいつか必ず来る。


楽しい時間であれば尚更だ。


あっという間にライブは進み、ゆりりんが次が最後の曲ですと言った時に「えぇーー!?」と悲しそうな声が響いた。


それでもライブは進む。そしてラストの曲も終わると、沢山のスポットライトがゆりりんに集まった。



「……みんなー!最後まで盛り上がってくれてありがとッーーー!!!それじゃあ……大切なお知らせがありますッ!ちゃんと聞いてねッーー!!」



なんか引退宣言をしそうな雰囲気だな。


さて、ある意味ここからが本番だと言える。ここで一緒に戦ってほしいっていう旨をちゃんと伝えれば、みんなも協力してくれるはずだ。アイドルからのお願いなんだから、断る道理がない。


そう考えていると、ゆりりんは左手をステージ脇の方へと……俺に向かって伸ばした。



「ナギト!出番だよっ!!」



「……へっ!?」



ふわりとステージから飛び降り、俺の元へと駆け寄ってきて手を握った。そしてそのまま俺の手を引いてステージ上へと戻る。


俺は状況を理解出来ないまま、同じく呆気に取られているロートに見送られて、大観衆の前へと立った。



「な、なんで……うおっ!」



舞台袖からマイクが飛んできて、それを反射的にキャッチする。


飛んできた方向を見ると、ヴラヴィが腕を組んでウィンクしていた。



「……さっナギト。大丈夫。みんな盛り上がってるから。」



自身のマイクを切ってゆりりんはそう俺に囁いた。


本当に俺がやるのか……?


でもココまで来てしまったし、観客は俺を怪しむ視線を送ってくるし(アイドルが男を引っ張ってきたから当然か)、もう引き返すことは出来ない……か。



「あ、あー……。」



マイクのボリュームをチェックする。俺の声が色んなところから聞こえるって変な感じだな。



「──聞いてくれ。異世界には、俺たちのこの日常を壊したがっているヤツらがいる。」



もう腹をくくって、どうにでもなれだ!



「かつての俺たちは、そんなヤツらの侵略に怯え、黙って受け入れるしかなかった。けど!もう今は違うんだ!」



拳を握りしめ、突き上げてみせる。



「俺たちには武器がある!戦う力がある!そして……守るべき女神がいる!」



ゆりりんへと腕を広げると、歓声が響き渡った。



「だから皆!俺たちと共に戦ってくれ!俺たちの世界を……女神を守るために!」



歓声はさらに大きくなる。



「今こそ!皆の者!女神の……ゆりりんの元へ集え!この世界を……彼女を俺たちの手で守るんだ!そして……伝説になるんだッ!!」



スポットライトに照らされ、大歓声の中、俺はガッツポーズを決めた。

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