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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-22 全速前進!

それから…………。


短期間で全てをこなさないといけないため、目の回る忙しさで色々なことを行っていった。


けど、嫌な忙しさじゃない。見据える目標を考えると楽観的になってしまってはいけないのだけれど、祭りの準備をしているような充実した忙しさがあった。



「おーっすダイチ、ステージの方どうなってる?」



「人員の確保は済んでるし、照明や楽器はヴラヴィが何とかしてくれるそうだ。もう少ししたら合わせ練習が始まると思う。そっちは?」



ダイチとゆりりんはステージ関係での仕事を、俺とロートは広報や雑務を主に担当している。



「チラシ配りはヴラヴィとマギサがやってくれるってさ。次は細かい調整とか設備の確認とか……そのへんかな?」



こうやってイベントを開催する側の立場になって感じたけど、1つのイベントを完成させるためにやることがとにかく多い。こりゃあ頻繁には開けないしイベントのチケットも高くなるってもんだ。


冬だというのに忙しさのせいで服装も薄着になる。まぁこの世界は日本に比べると気候が穏やかな方だと思うけど。


現在、11月18日。雪はまだまだ降りそうにない。



「このまま順調にいけば、あと5日くらいで完成しそうだな。」



「かなりギリギリなスケジュールになるが……そうだな。」



ダイチは若干の不安を見せつつ頷いた。


次の襲撃まで1週間から2週間。襲撃された11月15日にヴラヴィはそう予測を立てた。敵の準備にそれくらい時間がかかるだろうという予想だが、あくまで予想だ。


ゲームのフラグと違って正確に動いてくれない。もしかしたら明日来るかもしれないし、今から30分後に来るかもしれない。



「……まぁダメだったら、その時はその時だろ。今はただ、やれることをやろうぜ。」



「……ああ。そうだな。」



積み上げてきたモンが全部ムダになるかもしれない。けど未来さきのことは誰にも分からないし、憶測だけで決めつけるのはよくない。


だからこうなればいいな、こうなってほしいと願って行動する。それだけだ。



「おぉーい!ナギトー!」



ロートが呼んできた。



「もうそんな時間か。じゃあダイチ、また後でな。」



「ああ。……どこか行くのか?」



俺はダイチに歯を見せて笑ってみせる。



「これから城でプレゼンするんだ。」



ダイチと別れてロートと一緒に町を出、彼女は首からぶら下げていた銀のカードを天へと掲げる。



「出でよ!クリムゾン・ドラゴン!!召喚!」



紅いドラゴンが召喚され、ドラゴンは腰を下ろし羽を地面へと垂らし俺たちが登りやすいようにしてくれる。



「それじゃ、カノナス城へ向けて出発!」



2人でドラゴンの背中に座り、俺のすぐ前に座るロートがポンと叩くとドラゴンはゆっくりと羽ばたき出し、大空へと舞い上がっていく。


高度と体勢が安定してきたところで上着を羽織る。さっきまでは動いてたら暑かったけど、上空でじっと座っていたらすぐに冷えてしまう。



「でもナギトがプレゼンの仕事を受けるなんて、なんか意外。そういうのって苦手じゃなかったの?」



「う~ん……苦手なんだけどさ……なんて言うんだろ……?」



人前で発表をするのは小さい時から苦手だった。


学校でそういうことをやらされた経験は何度もあったけど、一度も慣れることはなかった。人前に立って視線が自分に集中すると、頭が真っ白になって考えていたことが消えて声が上手く出なくなる。


だから発表とかは苦手で……ハッキリ言えば嫌いなことだった。


でも昨日、ヴラヴィから頼まれた時──。



「プレゼンを君にやってほしいんだ。一番適任だと思ってるよ。」



──そう言われた時、ちょっと救われたような気がした。


俺の中で嫌いなことで、これから先も好きになれないこと……そうずっと思っていたけど、ヴラヴィがああ言ってくれたことが嬉しかった。肯定してくれた気がしたから。


だから、やってみてもいいかもしれない。そう思って引き受けてみたんだ。



「……ちょっと挑戦してもいいかなって。学校の授業とは違うわけだし、独りでやるわけでもないし。」



「ナギト…………え?私もやるの?」



完全に部外者気分だったであろうロートは驚愕の表情を見せた。



「そりゃあ……俺がダメだった時に。テンション任せで引き受けたみたいなところがあるけど、やっぱり俺にはムリかもしれないし……いやダメかも!やっぱ俺にはムリだ!」



「えー!?私、絶対にやらないから!」



1回ネガティブになると、気持ちがグラグラして決心も揺らいでしまう。


しばらくロートと2人で押し付け合いながら、自分の心づもりを確認する。


……大丈夫。点数が付けられるわけじゃない。プレゼンと言っても大仰なものじゃない。ただ用意した説明を複数人の前でするだけだ。



「ふぅ……大丈夫だ大丈夫。今の俺は無敵……。」



自己暗示をかけて心を強く保つ。


ダイチに見栄なんか張るんじゃなかった。アレのせいで苦しめられている節がある。



「……ところでライブで何の曲やると思う?」



「んー……人によって最新の曲が違うわけだし、私は……。」



到着するまでの残り時間、本番でゆりりんが何のアニソンを歌うかを予想して過ごした。こういうのを予想するのは楽しい。テレビでアニソン特集みたいなタイトルを見つけるとワクワクした気持ちに少し似ている。


でも歌番組のアニソン枠で国民的アニメの主題歌を流して終わったあの番組は許さん。こういうのは無難なのに逃げちゃいけない。



「とうちゃーく!」



城下町の前で地上に降り、ドラゴンはカードへと戻る。ここからは徒歩で城まで向かう。城の真ん前までドラゴンで行けたら楽なんだけど、停める場所がないし周囲の迷惑にもなってしまいそうだ。まるでヘリコプターみたいな扱いだ。


城下町に人影はそんなになかった。


城の人たちがバタバタと忙しそうに何かやっているけど、それだけだ。住民の人たちの姿はない。近いうちに戦場になる可能性が高いから、避難させたのだろう。



「こんだけ人がいないと、夏休みの時を思い出すなぁ。」



シメアがどうして神様から人になったのか(正確には村人だっけ?)分からないままだ。ミノア様は調べてくれるって言ってたけど、その話が上がってこないってことは進展がないってことだ。


どうなるか分からないってのは不安だと思う。……いや3人での暮らしに慣れてるみたいな感じもするし、意外とそうでもない?


あ、プレゼンが終わったらバサラに帰る前にウチに帰ってシメアも連れていかないと。管理者からの接触を待って留守番させてたけど、多分その必要もなくなったし。



「あの時から、3人一緒にいるのがすっかり普通になったよね。」



「だな。それが俺たちの日常だ。」



だから、出来ることをやってこの日常を守らないと。


他人が土足で心の中にまで入って来て、好き勝手に壊していくのは我慢ならない。そのための戦いだ。



「……さて、着いちゃったし……やるか。」



カノナス城に到着。


緊張も不安も治まっていないけど、来てしまった以上やるしかない。心の乱れを誤魔化して、自分に度胸があると言い聞かせて。



「──それでは、これよりアルティメット・アニソンライブ計画の説明をさせていただきます。」



会議室で重役やら何やらを前にプレゼンを始める。


ロートは緊張した面持ちで部屋の隅から俺を見つめている。大臣おっさんは相変わらず2人いる。周囲がそれを当然としているのが気味悪い。



「まず、このアルティメット・アニソンライブについてですが……。」



解説を始めながら思う。


なんでこんな名前になってしまったのだろう、と。夏祭りのアルティメット忍者祭りにあやかって付けられた名前だけど、どう考えても深夜テンションと悪乗りで付いた名前だ。


誰か反対するヤツ、いなかったの?


らしいと言えばらしいネーミングだけどさ。



「……我が国でも知名度・人気共にトップレベルであるゆりりんにステージに立ってもらい……。」



転生人たちを集める目的のことは伏せたまま説明を行う。この世界の人にしてみればよく分からない内容になってしまうし、このご時勢で一遍に多くの情報が出てきても混乱させるだけだろう。


まぁ頭の固い上の世代にこのイベントを理解してもらおうとは端から思っていない。ただ説明してくれて、若手の人たちがスタッフをやってくれればそれでいい。


……そう考えていた。



「──以上です。ご清聴ありがとうございました。」



そう言ってお辞儀をすると、大きな拍手が会議室に響き渡った。



「えっ?」



驚いて顔を上げると皆が拍手していた。なんとあの大臣おっさんもだ!


途中から緊張は解けたけど話すのに夢中で、何を喋ったか全然覚えてなかったけど俺のプレゼンがここまで多くの人々の気持ちを動かすことが出来たんだ。


ロートも部屋の隅から笑顔で拍手をしてくれていた。


重役の人たちも興奮したように話し合っている。


俺のプレゼンに感動して意見を交換してくれるとは……ここまで成果を認められたのは初めてかもしれない。そう思うと涙が溢れそうだ。


でも、これは決して俺1人の成果じゃない。ロートやゆりりんが背中を押してくれて…………ん?



「…………違うな。」



これは俺のプレゼンが心に響いたわけじゃない。


ゆりりんが人前で歌って踊ることをオヤジどもが喜んでいるだけだ。



「……失礼!」



そう叫んで退室!


去り際の挨拶だと思って誰も気にしてないだろう。失礼な連中め!



「まぁまぁ……上手くいったことには変わりないんだから。」



「そう言ってくれると嬉しいよ……ったく。」



俺の実力でも何でもなかったってわけだ。


アイドルのプロデューサーとかもこういう気持ちなのかな?



「まっ……応援してくれてありがとう。」



ロートの頭をポンポンと優しく叩く。



「えへへ……じゃあ仕事も終わったことだし……。」



「シメアと一緒に帰るか!……でもちょっと休憩しようか。」



こういう気分になった時は、甘いものを食べるに限る!

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