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この世界はバグとフラグで出来ている  作者: 金屋周
第5章 異世界の力
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5-20 男子の心は大体同じ

夜──。


町のホテルの部屋にて──。


男女で部屋を分け(普段はロートとシメアと一緒だから気にしてなかったけど、年頃の男女が同じ部屋ってヤバそう)、俺はダイチと同じ部屋に。


ふかふかなベッドに寝そべりながら、今日あったこととこれからのことを整理する。



「……結局、ライブは出来るってことでいいんだよな?」



「ああ。町の人たちは承諾してくれた。けど、実際にどこまで出来るかだな。時間が足りな過ぎる。」



「足りないのか?2週間近くあるって話だぞ?」



最長でってくらいだけど。でも1週間近くはほぼ確実にあるだろうし、急いでいけば何とかなりそうだと思ってる。



「甘く見積もって、だろ?1日かければバグ辞典のコピーは終わるだろうけど、ライブの方の準備は1日じゃ終わらない。」



「そんなにかかるもんなのか?」



広場にステージを用意して、広告をばら撒けば終わりじゃないの?


他に何かやることあったっけ?


キョトンとしているとダイチに溜め息を吐かれた。



「ライブ本番のことを視野に入れてないだろう?伴奏もそうだが、歌って踊るのにどれほどの準備と練習が必要だと思っているんだ?」



「……踊るってのは初耳な気がするんだけど。」



人気のアニソンをいくつかゆりりんに歌ってもらうって話じゃなかったっけ?



「……いつの間にか、本格的なアイドルのライブの話になっていたんだ。まぁそれはとにかく、ゆりりんに歌と振付を覚えてもらうには……。」



「とにかくで済ませていい内容じゃないだろ!?そりゃあ1週間あっても足りないわな!」



「そういう方向でやっとOKが出たんだから仕方ないだろ!?皆!可愛い女の子が元気に歌って踊る姿が見たいんだよ!!」



「確かに!その通りだ!!」



そうでなければ、女児向けアニメもアイドルアニメもオタクに流行らなかっただろう。


それにこの世界にはアニメもアイドルもないから、皆フィクションでその欲求を満たしている。本物が現れるというのであれば、そりゃあ注目もされる。



「ゆりりんが……皆の前で踊って、この世界の象徴になるのか……。」



あれ……?


なんだろう?この気持ちは……?


嬉しいことのはずなのに、寂しいという気持ちも強い。


そうか……これが……懐古という気持ちか……。人にぶつけたらウザがられるヤツだ。



「いや、今回限りの予定だから。」



「それは分かってるけどさぁ。」



変化が起きるってのは、つくづく不安な気持ちになるもんだ。



「敵対勢力に対抗する戦力集めに必要なことなんだ。もうこの計画で行くって決めたし引き返せない。やるしかないんだ、ナギト。」



「分かってる……分かってはいるんだ。でも……。」



窓の外の星空を見る。


ゆりりんとロートも今、隣の部屋で同じ星空を見上げているのだろうか?



「皆が渇望していたアイドルが突然現れて、しかもゆりりんだぜ!?めっちゃカワイイじゃん!絶対皆、変な目で見るって!!」



「きっとそうなってしまう!いや!必ずだ!ゆりりんはスタイルも良いからな!」



俺はベッドから立ち上がり、拳を握りしめるダイチの胸ぐらを乱暴に掴む。



「ダイチィ!!スタイルが良いだと!?ハッキリ言いやがれェ!!」



ダイチは俺の手を掴んで引きはがし、俺の身体をベッドへと投げ飛ばす。



「ああ分かったよ!ハッキリ言ってやるよ!ゆりりんはな!胸がデカいし腰は細い!まだ高校生だっていうのに、あのスタイルだぞ!?性的な目で見られるに決まってる!!」



「それに加えてあの性格な!優しくて純粋!素直!声も良い!ガチ恋勢が出てくるぞ!」



勢いよく跳ねてベッドから起き上がり、再びダイチに掴みかかる。



「出てくるに決まってる!何の嫌な感情も持たずにアニソンを歌ってくれるんだぞ!?理想のヒロインじゃないか!!」



ダイチは負けじと俺の腕を掴み、取っ組み合いの体勢に入る。



「そんなことは分かってる!あと正直に言うと!今日ゆりりんを見てこんなにデカかったっけって思ったよ!普段ロートとシメアを見てると特にな!」



「ロートも小さいわけじゃないだろう!?同棲してる身分で何言ってるんだ!!」



「うるせぇ!!小さくはないかもだけど!大きくも……ねぇんだ!!」



押し合っていた状況から逆にダイチの腕を引いて、そのまま前に転ばせる。



「ぐおっ!?ワガママ言ってんじゃ……!」



「ねぇ、さっきから凄い声と音してるけど……何かあったの?」



ダイチが飛びかかってくるタイミングで部屋のドアが開き、ゆりりんが顔を覗かせた。


俺は咄嗟にダイチを躱してゆりりんに笑いかける。ダイチは勢いのまま床に顔をぶつけた。



「そんなに凄い音してた?……どこまで聞こえてた?」



今までの会話が全て筒抜けだったとすれば、もう死ぬしかないじゃない!


中学生レベルの猥談で盛り上がっていたことを知られてはならない。隠し通せるレベルであれば、全力で隠す!



「どこまでって……怒鳴り声?みたいなのが聞こえるねーってロートと話してて、ドタバタって音もしたから……何やってたの?」



ハッキリとは聞こえてないみたいだ。これならセーフ。ホテルの壁の厚さに感謝しかない。


ここで上手いこと言い訳をすれば、充分に誤魔化せる。



「えーっと……その……。」



けれど、こういう時に限って頭は働かないものだ。授業で急に指されて答えが分かってるのに思考が真っ白になって答えられない。そんな感じだ。



「プロレス……やってたんだ。男子はこういうの、好きだから。」



ここで起き上がったダイチのファインプレー!


これに便乗して乗り切るしか道はない!



「……そうそう!運動も兼ねて、軽いプロレスをな!修学旅行とかでよくやってたんだよ、俺たち。」



あるはずもない記憶を捏造して言い訳する。マギサやヴラヴィだったら疑ってきそうだけど……。



「そうだったんだ。でも、他にも泊まっている人はいるから、騒ぎ過ぎないようにしてね?」



流石はゆりりんだ!良い子!天使!



「ああ!そろそろ終わろうかと思ってたんだ。もう遅くなってきたし、そろそろ寝ることにするよ。ゆりりんもおやすみ。」



「ええ、おやすみなさい。ナギト、ダイチ。」



ゆりりんはニッコリと笑って静かにドアを閉じ、パタパタと静かに足音を立てて去って行った。



「……ふぅー。」



安堵のため息が思わず零れた。


どうしようかと思ったけど、どうにかなったみたいだ。



「……ちょっと盛り上がり過ぎたな。」



「……だな。」



ダイチの言葉に俺も反省する。


深夜テンションってやつだろうか。普段ならまずしないような内容で異様に盛り上がってしまった。でもこういう話題をしたことがなかったから、ちょっと新鮮な気分だ。



「……というか、ダイチにもそういう一面があったとはなぁ。」



ニヤニヤと話しかけると、ダイチはビクッと肩を震わせた。


リア充で男女の交友関係にも慣れてますよ、みたいな感じで皆の兄ちゃん的なポジションだったのに、まさかねぇ……。



「……俺だって男だ。そういう感情が出ることもある。」



「そういう感情って?」



「もうその手には乗らん!ほら!もう休むぞ!」



「はいはい。」



いや~でもいいストレス発散にはなった。


部屋の灯りを消して、ベッドに寝っ転がる。


色々な出来事があった、長い1日だったなぁ……。本当だったら、ロートの誕生パーティーをやって大はしゃぎして、今頃気持ちの良い疲れ方をして休んでいたのに……。


今回の件が片付いたら、その時にちゃんとパーティーをしないとな……来月は俺の誕生日が来てしまうし……。


そんなことを考えているうちに眠りについた。


そして…………。


どれくらい経っただろう。ふと目が覚めた。


疲れていたから正直、昼近くまでぐっすりだと思っていたのに、かなり早い時間帯で目が覚めてしまったようだ。


隣のベッドでダイチが寝息を立てていて、窓の外はまだ薄暗い。夜明け前みたいだ。


それなのに目が覚めてしまったのは、何かに呼ばれているような気がしたからだ。



「イリスか…………?」



意思を持つ霊装。テーブルの上に十字架の状態で置いてあるのを確認する。とうとう喋るようになったのかと思ったけど、違ったみたいだ。


そういえば……意思を持つって言われてるけど、イリスに性別はあるのかな?昨日の猥談を聞かれていたとすると、どうか男性であってほしい。



「…………あ。」



何気なく窓の外に視線を送った時、下に誰か立っていることに気が付いた。


赤い髪をした人物だ。この辺りで見かけたはない。



「もしかして…………。」



どうしてそう思ったのかは分からない。


ただこの時、あの人に呼ばれて目が覚めた。そう思ってしまった。


ダイチを起こさないように静かに着替えて、足音を立てないように注意しながら階段を下りて外へと出る。


泊まっている部屋の真下に位置する、中庭のようになっている場所に向かうと、その人物は真っ直ぐに立っていた。



「──待ってたよ。どうしようかと少し迷っていたから、来てくれて嬉しいよ。」



長く綺麗な赤い髪。それを三つ編みに結って前へと垂らしている。無表情ながら綺麗な顔に赤い眼。顔からしてロートと同い年か1つ下くらいに見える。身長はゆりりんよりちょっとだけ高い。


水兵服のような恰好だ。ズボンだけどスカートの方が似合いそうな気がする。



「えっと……。」



不思議なのは、この人に前にも会ったような気がすることだ。


異世界だけど、派手な髪色をした人はほとんどいない。こんな綺麗な赤髪の人に会っていれば、忘れることなんて……。



「あっ……。」



いや、会ったことがある。


思い出した。


この世界に転生したばかりの頃、騎士団の入団試験をやった日のことだ。町に出た時に、赤い髪をした少女にぶつかった。


そうだ……この人だ……。


顔も髪型も一緒だ。


すぐに思い出せなかったのは、半年ほど前のことだったというのと、思い出が沢山あったからだ。



「どうかした?……まぁいいか。話に入ろうか。」

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